*ニコラ君の新学期 ( 1611ー1673 )* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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(1611-1673)

プチ・ニコラ

 毎週水曜日の夕方、下校するときはみんなすごく嬉しいんだ。何故って、先ず下校するからだし、次に、翌日は木曜日で学校に行かなくていいからだよ。それに、下校の途中で街の映画館の前を通るんだけど、水曜日は映画館の上映プログラムが変わる日で、ボクらは何を上映してるか分かるんだ。それでもし素敵な映画をやってれば、家に帰ったらパパやママに明日映画を見に行くから映画賃をおくれって頼むのさ。これ、時々は上手く行くんだ。でもいつもって訳じゃない。特に学校でおふざけしたり、点数が悪かったりするとダメだね。
 で、映画館を通りかかったとき、すごい映画をやってるのが分かったんだ。「帰って来たダルタニャン」と言う題名で、近衛騎士たちが写ってる写真が沢山あった。彼らは剣を抜いて戦い、その出で立ちは、羽飾りのついた大きな帽子、ブーツ、大きなマントって具合さ。ジョフロワが誕生日にもらった仮装セットみたいなやつだね。ところで、ジョフロワの奴、そんな恰好で教室に入って来たもんだから女先生からお目玉を喰らったんだよ!
 「ボクは、今週25番以内だから」ってジョアシャンが言った。「パパはきっと映画賃を出してくれるぜ。」
 「オレなんか」ってウードが言った。「パパの目を真っ直ぐに見つめるんだ。するとパパはいつもオレが欲しがってるものをくれるのさ。」
 「だよな、ビンタをもらうってわけだ。」ってメクサンが言った。
 「お前、今すぐ一発もらいたいのか?」てウードが訊いた。
 「構えろ!」ってメクサンが叫んだ。
 それから二人は、カバンから取り出した定規を使って近衛騎士ごっこをおっぱじめたんだ。チャッ、チャッ、チャッ、コンチクショー!って具合さ。
 「ねえ君たち、ダルタニャンは実在したんだよ」ってアニャンが言った。「ある本で読んだんだけど、ダルタニャンはシャルル・ド・バツって名前で、1611年ジェール県リュピアックで生まれ、1673年オランダのマーストリヒトで亡くなったそうだ。」
 でもアニャンの奴、クラスの一番で、女先生のお気に入りときてるから、ボクらは彼のこと余り好きじゃない。だから返事もしなかったのさ。それに定規を使って、チャッ、チャッ、チャッ、コンチクショーって具合に近衛騎士ごっこをするのに夢中になり過ぎていたんで、とうとう切符売りのおばさんが出てきて、帰りなさい、お客さんが入る邪魔になるじゃないのって言ったんだ。それで、ボクらはみんな映画館を出て、明日2時に映画館の中で会おうって約束した。何故って、2時に行けば、居残って2回半映画が見られるからだよ。3回目は終わるのが遅すぎるから、終わってから家に帰ったら叱られて、面倒なことになるからね。


プチ・ニコラ

 家に帰ると、ボクはパパを待った。パパが会社から帰るのは、ボクが下校するより遅いんだけどパパには宿題は無いんだ。それで、パパが帰るとボクはこう言ったのさ。
 「パパ、明日映画に行くお金をくれる?」
 「今週は文法で0点を取ったよな、ニコラ」ってパパはボクに言った。「だから映画には行かせないってもう言ってあるだろう。」
 「ええ!だって、パパ」ってボクは言った。「ええ、だって、パパ!」
 「泣き言を言っても無駄だよ、ニコラ」ってパパは言った。「明日は家にいて文法の練習問題をやるんだ。パパは頭が空っぽのアホ息子なんか欲しくはないからな。後になって、パパに感謝することになるさ。」
 「もしお金をくれれば、ボクは今すぐ感謝するんだけどなあ。」ってボクは言った。
 「もうたくさんだ、ニコラ!」ってパパは言った。「いつまでもパパがお前にお金をあげるわけにはいかないんだ。いつかニコラは自分でお金を稼がなきゃならなくなるんだよ。で、もしお前の頭が空っぽなら、二度と映画には行けなくなるんだ。」
 ボクは試しに、ちょっと泣いてみたけど上手く行かなかった。
 「いいがげんにしろ!」ってパパが怒鳴った。「それに私は早く夕食を済ませて、その後静かにラジオを聴きたいんだ!」
 それで、ボクはふくれっ面をした。
 夕食の後、パパはラジオの前に腰を据えた。パパがメチャ好きな放送番組があるんだよ。その番組には大声でたくさんおしゃべりをするおじさんが出てきて-すごく面白い人だよ-ずっと口数の少ない他のおじさんたちにいろいろ問題を出すんだ。解答者のおじさんが答えると、周りのみんなが大声を出し始める。つまり解答者のおじさんの勝ちってわけ。それで解答者のおじさんは、たくさんお金をもらって退場してもいいし、そのまま残っていてもいいんだ。残った場合は、出題者のおじさんがまた別の問題を出すんだよ。もし解答者のおじさんがまた答えると、2倍のお金がもらえる。すると周りの人たちは前より2倍も大きな声を出すんだ。もし答えないと、出題者のおじさんはすごく悲しむんだけど解答者には一文もやらないのさ。そして周りの人たちは「あーあ!」って言うわけ。

その晩、ラジオの解答者のおじさんは全部の質問に答えていたんだ。それでおしゃべりな出題者のおじさんもパパも大喜びしてたってわけ。
 「すごいね、この人は」ってパパが言った。「この人も小学校ではきっと良い点数を取っていたんだろうな、なあ、ニコラ?」
 ボクはろくに返事もしなかった。だってまだふくれっ面をしてる最中だったからね。ふん、結局はその通りだろうよ、でもひどいじゃないか!せっかく映画館でお気に入りの映画をやってるっていうのに、何でボクには見に行く権利がないのさ?いつだってこうなんだ。ボクが何か欲しがるたんびに、ダメって言われる。いつか家出をしてやるぞ、そうすればみんなすごく寂しがってこう言うさ。「あのときニコラに映画賃をあげておけばよかったなあ!」ってね。それに、結局文法は0点だったけど読解では20点中14点取ったんだ。読解はすごく得意なんだよ。それに多分、もしパパに来週は文法をきちんと勉強しますって約束すれば、パパは映画賃を出してくれるだろうし、もし映画を見に行ければ、誓ってもいいけど、ボクはものすごく勉強するよ。
 「ねえ、パパ…」ってボクは言った。
 「黙りなさい、ニコラ!」ってパパは大声を出した。「パパにラジオを聴かせてくれよ。」
 「いいですか」ってラジオでは出題者のおじさんが言った。「今度正解すれば、108万旧フランさしあげます。ある小説で有名になった人物は、リュピアックで生まれました。その人物とは誰でしょう?彼が誕生した日と亡くなった日はいつでしょう?彼はどこで亡くなったでしょう?」
 「ねえ、パパ、映画賃のことだけど、パパに約束するよ、学校ではバッチリ勉強するって、特に文法をね。」ってボクは言った。
 「静かにしないか、ニコラ!」ってパパは大声を出した。「パパは答を聞きたいんだ。」
 「それって、シャルル・ド・バツ・ダルタニャンだよ」ってボクは言った。「1611年、ジェール県のリュピアックで生まれて、1673年にマーストリヒトで亡くなったんだ。それで、映画賃をボクにくれる?」
 「ニコラ!」ってパパは大声で言った。「我慢のならない奴だなあ!お前のおかげで聞きそこなったじゃないか、肝心の…」
 「正解です、ブラヴォー、その通りです!」ってラジオでは出題者のおじさんが叫んだ。「おっしゃる通り、シャルル・ド・バツ、つまりダルタニャン閣下です。彼は1611年、ジェール県のリュピアックで生まれ、1673年マーストリヒトで亡くなりました!…」
 ボクのパパって最高だよ。だって映画賃をくれたんだもの。
 ボクがわからないのは、パパが何故今ではしょっちゅう目を真ん丸にしてボクを見つめるのかってことなんだ。

プチ・ニコラ

(ミスター・ビーン訳)

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