*ニコラ君の新学期(もうすぐ新学期)* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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好きな音楽の話題を中心に、気の向くままに書いていきます。

ジャン-ジャック・サンペ(イラスト)
ルネ・ゴスィニ(文)

ニコラ君の新学期

プチ・ニコラ


IMAV éditions


もうすぐ新学期

プチ・ニコラ


 明日、新学期の買い物に行くってママが言ったんだ。
「何を買うの?」ってパパが訊いた。
「たくさんあるわ」ってママが答えた。「特に、新しい学用カバン、文具入れ、それに靴ね。」
「また靴かい?」ってパパが叫んだ。「まったく考えられんな!靴を食っちまうんだろう!」
「まさか、でもスープを飲むからあの子は大きくなってるのよ」ってママが言った。「大きくなれば、足も大きくなるわ。」
 次の日、僕はママと買い物に出かけたんだ。それで靴のことでママと僕はちょと言い争いになった。何故って、僕はバスケット・シューズが欲しかったんだけど、ママはすごく丈夫な革靴を買うつもりだ、それで気に入らなければこのまま家に帰る、そしたらパパはご機嫌ななめよって言ったんだ。
 店員さんはすごく親切だったよ。どの靴もみんなとても素敵ですってママに説明しながら、僕にたくさん靴を履かせてくれた。でも、ママは決められなかったんだ。それからママの気に入った栗色の靴があって、履き心地はどうって僕に訊いた。店員さんに辛い思いをさせたくなかったから「いいよ。」って僕は答えたんだけど少し足が痛かったんだ。
 それからママは僕にすごいカバンを買ってくれた。ところで僕らは下校の時にカバンを使ってすごく愉快なことをやるんだ。つまり友だちの足元にカバンを投げつけてすっ転ばして遊ぶのさ。それにしても、クラスのみんなと会いたくてたまらないよ。それからママは、ピストルを入れるホルスターみたいな文具入れを買ってくれた。それに、ピストルの代わりに飛行機みたいな鉛筆削り、ネズミみたいな消しゴム、フルートみたいな鉛筆、それと他の何かに似てるいろんな物も一緒にね。こういうのを使っても、授業中いろんなおふざけが出来そうだな。

夜、パパはママが僕に買ってくれた品物に全部目を通して、「持ち物を大切にするんだよ」って言ったんで、僕は「はい」って答えた。もちろん、僕は持ち物をすごく大切にしてるさ。ネズミみたいな消しゴムを飛行機みたいな鉛筆削りで爆撃する遊びをやったら、夕食の前に鉛筆削りが壊れちゃったけどね。それでパパは腹を立てて、ヴァカンスから帰ってからこの子は手に負えない、早く学校が始まってくれればいいって言った。
 実はね、新学期はもうすぐなんだ。でも、パパとママと僕は随分前にヴァカンスから帰って来たんだよ。
 すごく素敵だったんだ、ヴァカンスは。最高に楽しかったなあ。僕たちは海に行ってたんだ。僕はいろいろすごいことをやったよ。すごく遠くまで泳いだし、浜辺ではコンテストに勝って、挿絵入りの本を2冊と小旗をもらったんだ。それに、僕はすっかり日焼けしてすごくかっこよくなった。
 もちろん、家に帰ったとき、自分がどんなに日焼けしたか友だちに見せたかったさ。でも新学期の前だと、これがなかなか厄介なんだ。だって友だちには会わないからね。アルセスト-僕の家の一番近所に住んでいて、一番の仲良し、しょっちゅう何か食べてる太っちょなんだけど-そのアルセストも留守だったんだ。アルセストは毎年、親と一緒にオーベルニュで豚肉屋をやってる叔父さんの家に行くのさ。それに、ヴァカンスに出かけるのがとても遅いんだ。何故って、叔父さんの家に行くにはコート・ダジュールにヴァカンスに行ってる叔父さんが帰って来るのを待たなきゃならないからだよ。

ニコラ君

 近所で食料品屋をやってるコンパニさんが、僕を見かけると、すごくいい男になったねえ、ちっちゃなパンデピス(注:蜂蜜入りの香料パン)そっくりだって言って、レーズンとオリーブを一個くれたけど友だちとはわけが違うからね。


プチ・ニコラ

それに、ひどいよ、全く。何故って、誰にも見られないなら日焼けなんかしても無駄だもの。だから僕はすごく不機嫌になってたんだ。するとパパは、毎年同じ騒ぎを繰り返すんじゃない、新学期が始まるまでやかましく騒がれたんじゃかなわないって言った。
 「学校が始まる頃には、真っ白になっちゃうよ!」って僕は言った。
 「しかし、こりゃ病気だな!」ってパパが叫んだ。「ヴァカンスから帰ってから、この子は日焼けのことしか頭にないんだ!…いいか、ニコラ、これからどうすればいいか分かるかい?庭に出て日光浴をするんだ。そうすれば、私もつべこべ言われずに済むからな。学校に行く頃には、君は本物のターザンになってるってわけだ。」
 そこで僕は庭に行ったんだ。でも、もちろん浜辺のようなわけにはいかない。曇っていたからなおさらさ。
プチ・ニコラ
 するとママが僕を呼んだ。
 「ニコラ!草の上に寝っ転がって何をしてるの?雨が降り出してるのが分からないの?」
プチ・ニコラ

 この子といると頭が変になっちゃうってママが言ったので、僕は家の中に戻った。すると新聞を読んでいたパパが僕を見て、随分日焼けしたぞ、濡れてるからもう顔を拭いてきなさいって言った。
 「嘘だい!」って僕は叫んだ。「もう全然日焼けなんかしてないよ!浜辺に戻りたいよ!」
 「ニコラ!」ってパパが怒鳴った。「口のきき方に気を付けてほしいね。もうバカなことを言うんじゃないぞ!さもなきゃ、部屋に戻って夕食抜きだ!わかったかい?」
プチ・ニコラ
 そこで僕は泣き出して、ひどいよ、ひどいよ、家出して僕一人で浜辺に行ってやる、真っ白になるよりは死んだほうがましだって言ったんだ。するとママがキッチンから走って出てきて、一日中怒鳴り声を聞くのはうんざりだ、ヴァカンスに行ってこんなことになるなら、来年自分は家に居るほうがいい、ヴァカンスのことはパパと僕の二人で何とかすればいい、自分はそれほど乗り気じゃないんだからって言った。
 「でも、今年もバン・レ・メールにぜひ行きたいって言い張ったのは君だよ」ってパパが言い返した。「どっちみち、君の息子が気まぐれを起こしたり、家に居る時は手に負えなくなるのは私のせいじゃないさ!」
 「パパが僕に、庭に行けばターザンみたいになるって言ったんだよ」って僕は説明した。「でも、もう全然日焼けなんかしないんだもの!」
 するとママは吹き出して、まだとっても日に焼けてるわ、坊やは私の可愛いターザンよ、それに学校に行けば、きっとみんなの中で一番日焼けしてると思うわって言ったんだ。それからママは、部屋に行って遊んでらっしゃい、夕食ができたら呼んであげるからって言ってくれた。
 夕食のとき、僕はパパとは口をきかないようにしたんだけど、パパは僕に向かって山ほど変顔をしたもんだから僕は吹き出しちゃったのさ。それに夕食はすごくすてきだったんだ。ママがアップルパイを作ってくれてたんだよ。

それから次の日になって、コンパニさんが僕らに言った。クルトプラクさん一家が今日ヴァカンスから戻って来るはずだって。クルトプラク夫妻はご近所さんで、すぐ隣の家に住んでいて、マリー・エドヴィジュって名前の女の子がいるんだ。その子は僕と同い年で、髪はさえないブロンドだけど青い目がすごくすてきな女の子なんだよ。
だから僕は本当に困っちゃった。何故って、マリー・エドヴィジュには真っ黒に日焼けした僕を見てもらいたかったからさ。でもパパには何も言わなかった。何故って、もしもう一度日焼けのことを口にしたら、ひどいことになるってパパは僕に釘を刺してたからさ。
 晴れてたんで、僕は庭に出た。それからときどき駆け足でバスルームに入って鏡を見たんだけど、日焼けなんかしてなかった。だからもう一回庭で試してみて、まだ真っ白なままだったらパパに話に行こうって思ったのさ。
 それで僕がちょうど庭にでたとき、クルトプラクさんの車が、屋根に山ほど荷物を積んで家の前に止まるところだった。
 それからマリー・エドヴィジュが車から降りて、僕を見かけると手を振って挨拶してくれたんだ。
 それで僕の方は、真っ赤になっちゃったんだ。


プチ・ニコラ

(ミスター・ビーン訳)

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