*シューマンの歌曲 (30)- 詩人の恋 第10曲、第11曲 ー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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≪デュッセルドルフ時代④≫

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-デュッセルドルフ旧市街

1853年1月27日から3月31日までの第三シーズン後半、5回の演奏会が
開かれますが最後の演奏会はシューマンに代わりミラーが指揮をとりま
す。
シューマンはこの時期、バッハの研究と作品の普及に意を注ぎます。

春の訪れとともに、シューマンの健康も一時的に回復し、5月15日、16日
には近隣の都市が持ち回りで主催する「ニーダーライン音楽祭」に参加
します。
その音楽祭で「交響曲第四番ニ短調 Op.120」を自らの指揮で演奏し喝采
を浴びました。
この交響曲は1841年から1851年にかけて作曲されたもので、実質的には
交響曲第二番にあたります。

1853年秋から12月にかけて、第四シーズン前半が始まりますが、この時期
シューマンにとって二つの重要な出会いがありました。
一つは当時22歳の若手ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムとの出会い
でした。
8月30日にデュッセルドルフを訪れたヨアヒムの天才的な演奏に触れたシュ
ーマンは言語障害を起こすほどに感激します。
そして早速9月2日よりヴァイオリンと管弦楽のための「幻想曲 Op.131」の
作曲に着手します。
さらに9月21日から10月3日にかけて、「ヴァイオリン協奏曲ニ短調」を作曲
しました。
二つ目の出会いは、ヨアヒムの紹介状を携えハンブルクからシューマン家
を訪れた当時20歳のヨハネス・ブラームスとの出会いでした。
シューマン夫妻は作曲家、ピアニストとしてのこの若者の才能に深い感銘
を受けます。
早速、シューマンは「音楽新報」に「新しい道」と題する記事を発表し、新
時代の旗手としてブラームスを激賞します。
しかしこれは、リスト、ワグナー等「新ドイツ楽派」とブラームスとの後に
起きる対立の布石となるものでした。


$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-ブラームス
若き日のブラームス

また、この第四シーズン前半はこれまでの「音楽協会」理事会と対立が一層
深まる時期でもありました。
合唱団と管弦楽団は、団員を指導するというよりは自己陶酔的なシューマン
の指揮ぶりにますます反感を募らせていきます。
そして終に11月14日、「音楽協会」執行部は残りのシーズンはタウシュが管
弦楽と合唱の指揮を引き継ぐことをシューマンに提案します。
デュッセルドルフに嫌気がさしていたシューマン夫妻は、ウィーンかベルリン
に移住することを考え始めるのでした。

今日はこの年に初演された

「交響曲第四番ニ短調 Op.120」

の第1楽章を、リカルド・ムーティ指揮、バーヴァリアン・ラジオ・シンフォ
ニーオーケストラ
の演奏で聴いてみます。




≪今日の1曲≫

今日の歌曲は、歌曲集「詩人の恋」の第10曲

「Hör’ ich das Liedchen klingen あの小唄が聞こえてくると」

それと第11曲

「Ein Jüngling liebt ein Mädchen ある若者がある娘に恋をした」

の2曲を聴いてみます。

どちらも民謡風の歌ですが、それを介して若者の自虐的な心情が歌われます。



10. Hör’ ich das Liedchen klingen  あの小唄が聞こえてくると
Hör’ ich das Liedchen klingen,
かつて恋人が歌ってくれた
Das einst die Liebste sang,
あの小唄が聞こえてくると、
So will mir die Brust zerspringen
僕の心はいっそ張り裂けてしまいたくなる
Von wildem Schmerzendrang.
激しい苦痛で押しつぶされて。

Es treibt mich ein dunkles Sehnen
暗く沈んだ憧れが
Hinauf zur Waldeshöh’,
僕を森の高いところへと駆り立て、
Dort löst sich auf in Tränen
そこで 溶けて涙となる
Mein übergroßes Weh’.
僕のあまりに大きい悲しみは。


11. Ein Jüngling liebt ein Mädchen  ある若者がある娘に恋をした
Ein Jüngling liebt ein Mädchen,
ある若者がある娘に恋をした、
Die hat einen andern erwählt;
娘は別の男が好きだった。
Der andre liebt eine andre,
でもその別の男はまた別の女を好きになり、
Und hat sich mit dieser vermählt.
その女と結婚した。
Das Mädchen nimmt aus Ärger
すると娘は腹を立て
Den ersten besten Mann,
道でたまたま会った、最初の気に入った男と
Der ihr in den Weg gelaufen;
結婚してしまった。
Der Jüngling ist übel dran.
最初の若者はひどい有り様。

Es ist eine alte Geschichte,
これはある昔話、
Doch bleibt sie immer neu;
でもいつの世でも起こること。
Und wem sie just passieret,
誰でもこんな話に見舞われたら
Dem bricht das Herz entzwei.
心が真っ二つに裂けてしまう。



フィッシャー=ディースカウ 4分30秒から


第10曲 ヴンダーリヒ