*フィッシャー・ディスカウとシューベルト歌曲(32) -影法師ー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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≪シューベルトと病気≫
シューベルトが、彼の死の遠因となる病気、梅毒を発病した
のは1822年末、あるいは1823年の始めのことだと言われてい
ます。

1818年のジェリズで感染したとも1822年、友人のショーバー
(かなりの遊び人でした)と一緒に売春宿へ行って二人そろ
って感染したとも言われていますが、本当のところはよくわ
かっていません。まあ、シューベルト先生も男だったってわ
けです。

当時、梅毒は不治の病でしたからシューベルトは生涯これに
苦しめられることになります。
シューベルトが亡くなったのは1828年、ベートーベンの死の
翌年です。
直接の死因は腸チフスですが、梅毒によって著しく体力を消
耗していたのが遠因になったのではないかと思われます。

1824年3月31日付けのクーベルヴィザーに宛てた手紙の中で
シューベルトは、こう嘆いています。

「〈私の安らぎは去り、私の心は重く、もはやけっして安ら
ぎを見つけることは出来ない〉≪糸を紡ぐグレートヒェン≫
僕は今、毎日こう歌っていたいのです。夜、眠りにつくとき
は、このまま目が覚めないことを望むけれど、朝起きるとい
つも、昨日の苦しみだけが思い出されるのです」



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≪今日の1曲≫
今日はハイネ歌曲集の第6曲(白鳥の歌第13曲)


「影法師(Doppelgänger)」

です。

まさに鬼気迫る曲。
「彼女の絵姿」での手法を更に切り詰め、ほとんど朗誦に近い
歌と、驚くほど簡素な、しかし絶妙な効果を持つ和音だけの伴
奏。
詩の世界を遥かに上回る不気味さと凄みを醸し出しています。

今日は、DFDとメゾ・ソプラノのナタリー・シュトゥッツマン
の歌唱で聴いてみます。


Doppelgänger 影法師
Still ist die Nacht, es ruhen die Gassen,
In diesem Hause wohnte mein Schatz;
Sie hat schon längst die Stadt verlassen,
Doch steht noch das Haus auf demselben Platz.


夜は静かで、町並みは眠りについている
この家には僕の恋人が暮らしていた。
彼女はずっと以前にこの街を去ってしまった
だが いまだにこの家は同じ場所に建ったままだ。


Da steht auch ein Mensch, und starrt in die Höhe,
Und ringt die Hände vor Schmerzensgewalt;
Mir graust es, wenn ich sein Antlitz sehe
Der Mond zeigt mir meine eigne Gestalt.


そこに一人の男が立ち、空を見つめ、
激しい苦しみで両手をよじっている。
僕はぞっとした。その顔を見た時だ
月が照らして見せたのは僕自身の顔だった。


Du Doppelgänger, du bleicher Geselle!
Was äffst du nach mein Liebesleid.
Das mich gequält auf dieser Stelle
So mancher Nacht in aller alter Zeit?


ドッペルゲンガーよ、青ざめた仲間よ!
どうして僕の愛の苦悩を真似るんだ?
この場所で、幾晩も、その昔
僕を苦しめた あの苦悩を。


フィッシャー=ディスカウ


ナタリー・シュトゥッツマン