*フィッシャー・ディスカウのシューベルト歌曲(20) ー嫌な色ー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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昨日の「好きな色」に続いて今日は、「美しき水車屋の娘」
の第17曲


「嫌な色(Die böse Farbe)」

です。

前曲で「好きな色」であった「緑」は、終に若者の心の中
で「嫌な色」に変わってしまいます。

「緑」が、愛と青春の象徴であるとすれば、この歌で若者
は自らの「愛」と「青春」に、つまり「緑のリボン」を髪に飾る
水車屋の娘に決然と別れを告げます。

短調ではなく長調(ロ長調)で書かれ、感傷よりも決意を
感じさせる強い調子とダイナミックなリズムが若者の心情
を見事に表現していると思います。

誰にとってもそうですが、青春は夢や希望に溢れている反面
裏切りと悪意にも満ちたものです。
若者の愛した「水車屋の娘」は、言わばその「青春の刺」を
象徴しているのでしょうね。

今日は、ボストリッジの歌唱に加えて、リストが編曲したピアノ
独奏曲も併せて聴いてみます。リストの編曲では最後に第14
曲の「狩人」の一節が付加されていますね。
ピアノ独奏はオーストラリア出身のリスト弾き、レスリー・
ハワード
です。


Die böse Farbe 嫌な色
Ich möchte ziehn in die Welt hinaus,
Hinaus in die weite Welt,
Wenn's nur so grün, so grün nicht wär'
Da draußen in Wald und Feld!


僕は世界へ出て行きたい、
広い世界へ。
ただ緑色で、こんなに緑色でさえなかったら、
外の森と野が!


Ich möchte die grünen Blätter all'
Pflücken von jedem Zweig,
Ich möchte die grünen Gräser all'
Weinen ganz totenbleich.


僕は緑の葉を全部
あらゆる枝から摘んでしまいたい。
僕は緑の草を全部
涙で死んだように青ざめさせたい。


Ach Grün, du böse Farbe du,
Was siehst mich immer an.
So stolz, so keck, so schadenfroh,
Mich armen weißen Mann?


ああ緑色よ、嫌な色よ、
どうしていつも僕を見つめるんだ、
そんなに誇らしげに、図々しく、意地悪に、
この哀れな真っ白な僕を?


Ich möchte liegen vor ihrer Tür,
In Sturm und Regen und Schnee,
Und singen ganz leise bei Tag und Nacht
Das eine Wörtchen Ade!


僕は彼女の戸の前で横になりたい、
嵐や雨や雪の時にも。
そして昼も夜も小さな声で歌いたい、
一つの言葉、さよならを!


Horch, wenn im Wald ein Jagdhorn schallt,
Da klingt ihr Fensterlein,
Und schaut sie auch nach mir nicht aus,
Darf ich doch schauen hinein.


ほら、森の中で狩りの角笛が響くと、
彼女の部屋の窓が音をたてて開く。
彼女は外の僕を見もしないけど、
僕は中を覗き込めるんだ。


O binde von der Stirn dir ab
Das grüne, grüne Band,
Ade, ade! und reiche mir
Zum Abschied deine Hand!


おお、君の額から
その緑の、緑のリボンをはずしておくれ。
さよなら、さよなら、そして手を差しのばして
お別れの握手をしておくれ!


ボストリッジ


リスト編曲によるピアノ・ヴァージョン