第三章のはじめから。↓

https://ameblo.jp/jag-noise/entry-12450639122.html

 

 

「jagの曲好きだから、何でもいいよ!」

 

ハウス解散後、とにかくまずは人物本位でやろうと決めた新バンド!
その第一回ミーティングで、参加予定のメンバー二人がこう言った。
しかし、そうは言われても…

 

俺はハウス後、そして今、自分が音楽的に何をやりたいのかものすごく迷っていた。
やるべきことがわからないという事ではなく、元々いろんなタイプの音楽が好きで、あれもやりたい、これもやりたいと、選択肢があまりにもありすぎて…
と言うか、実はもうそんな音楽性うんぬんなんか、本当はどうでもよくて、この頃俺が考えてたのは、先にも言った通り前バンド、ハウスの反動というか…、仲間意識、仲良くなど、そんなことばかりだった。
 
新たにバンドを始めると決めてから、俺がいつも頭に思い浮かべていたのは、最初にオリジナルを演奏し、オーディションで審査員特別賞をもらった高校時代のバンド、

ビフォアー!

 
あのようにまたやれたら、どんなに最高だろう!
演奏以外でもつねにみんなで、熱く夢や様々な問題を語りあい、兄弟みたいだった。
あの暖かくて満ち足りた日々よもう一度!!
極論すれば、俺が今でもこうしてバンドというスタイルで何かを追い求めてるのは、あの日々が忘れられないからである!
俺の理想のバンドとは、単に演奏する集団ということだけではないのだ。
もっと精神的に深い何かと言うか…
残念ながら、ハウスというグループは、それとまるで正反対の寒々した人間関係に終ってしまった。
新しいグループは、またビフォアーみたいな家族的なつながりをもったものにしたい。

 

そしてまた、丁度この頃突然…、こんな思いをより強くせざるをえない、とある出来事が俺の身に起こった。
それは前章・ハウス編の最後でも話した、同棲していた女が浮気して、逃避行してしまった事件だ。
まさにこれから新バンドスタート、という矢先にこの出来事は起こった。
 
その彼女とは、ハウス結成から数か月で付き合いはじめた。
彼女が知り合いの女性に誘われ、ハウスのライブをたまたま見に来て、その後の打ち上げに参加したことで、急速に俺と仲良くなった。
周囲に美人だと羨ましがられるような彼女で、その後順調な交際を重ね、およそ1年前から埼玉県で一緒に暮らし始めていた。
同棲を始めてからも特に大きな問題もなく、俺の生き方やバンド活動を応援してくれている感じで、俺ももう行く先はほぼ結婚か・・・、という気持ちだった。
 
しかし、新バンド結成のための数度の打ち合わせをしたある日、いつものように家に帰ったら、なんと唖然とするほど部屋がもぬけの殻だった。
しばらく何が起こったのか意味が分からず、呆然と佇んだ。
テーブルに置手紙があることに気付いて読んでみると、バイト先で知り合った新しい男と親しくなり、告白されて断れず、ここ数か月、裏で付き合っていた事が書いてあった。
「別に嫌いになったとか、あなたに不満があるということは一切なかった。でもより好きになった人が出来たというだけ。こんな形であなたには本当に申し訳ないと思うけれど、もっと好きになったという思いはどうしょうもないし、仕方がないことだと思うから…」なんてサラッと書いてあり、文の最後には「新しいバンド、頑張ってください!」なんて締められていた。
 
俺は言葉にならないショックを受けた。
確かに、言われてみたら、ここ3か月くらいの彼女は、妙に帰りが遅かったり、「バイト先の打ち合わせが長引いた・・・」とかあれこれ理由をつけてきて変だった。
しかし俺は疑いもしておらず、言われてみて初めて、思い返すと確かにそれ以前とは違っていたな・・・なんて気付く始末だった。
今更ふと気づくなんて、なんて俺はマヌケだったんだろうと、もはや笑う気すら起きなかった。
 
勿論、到底納得できるものではなかったし、別れるにせよ二人で納得行くまで話し合いたかったが、当時は携帯電話なんてものはなく、彼女がどこに行ったのかも分からないし、どうにもならない。
この彼女のやり方・・・、浮気されてた事実とか、逃げるように消えたこととか、オレはひどい屈辱感や挫折感を感じ、この後極度の女性不信に陥ってしまった。
この事は今でもどこかで引きずっているような気がする。
俺は、今までの自信はどこへやら、精神的にかなり参ってしまった。

 

というわけで、それまではなんとなくのんびり、ミーティングや親睦会を重ね、バンドどうしようかな…、それよりまずは仲良くなりたいね~、なんて考えていた俺だったが、急に新バンド構想にいろんな意味で真剣に考えるようになった。
このやり場のない憤りを全て、もうバンド活動にぶつけるしかなかったのだ!!
だが、そう真剣になった矢先、嫌な話を耳にした。
それはヨッチが、陰でジョーなどに、俺のその別れ話をざまあみろみたいに笑っていたと言うのだ。
これは本人に直接確認したり、聞いたりしたわけではないから、本当のところはよくわからないが、でも確かに言われてみれば、その話しを聞いたヨッチは口では元気出せよと言っていたが、人の不幸をどこか楽しんでいるような感じではあった…。

 

これは今思えばなのだが、この頃のヨッチは、心の奥底で俺の事をどこか快く思わない感情があったんだろうと思う。
それについて思い当たる理由は、一つだけあった。
それは、普段から「ジュンスカがかっこいい!!」「史上最高のバンドはユニコーンだ!」「イカ天最高!!」(←当時人気の、深夜アマチュアバンド勝ち抜き番組)と言ってた彼に、俺がいつも口うるさく「お願いだから、もっといい音楽聴こうよ!」と言ってたことだと思う。
今考えたら、カツミとあまり変わらない発言を、俺は彼にしていたのだ。
勿論、カツミのように、嫌味であてつけるような言い方はしてないつもりだったが、でも音楽趣味的にレベルの低いくだらんヤツだ!!という思いは間違いなくあって、それが態度の片隅に出ていたのかもしれない。
彼も繊細にそれを感じ取り、これらをどこかで根に持っていたのだろう・・・
でも、彼の事は今まで信頼していただけに、この話しにショックを受けなかったと言えば嘘になる。
とは言っても、そんなことにいちいちこだわって、ああだこうだ言ってたら、自分がますます小さくなる気がした…
それにせっかく前向きになった途端、バンドをダメにするのは得策でないと思い、俺はその話しを心で握りつぶし、表面上では何事もないように接した。

 

ということで、なんだかまたまた雲行き穏やかでない、スタートになりそうな予感だが…
そんなこんなで、あいかわらずいろいろ問題だらけ、あれこれと忙しい俺だったが、この新バンド!
今回は完全俺が主導権を握っていた。
ヨッチもジョーも、冒頭のセリフを言って、音楽的なことは全て俺に丸投げ…。
自分の意思をああだこうだ主張してくることは一切なかった。
みんなが自己主張の塊で、何もまとまらなかったハウスの最後の方を思うと、話し合いはずいぶん楽だったが、しかし俺一人にかかる重圧はハウスの比ではない。
俺は彼らと新たに、どんな音楽をやるか考えた。

 

とにかく一つだけハッキリしていることは、ハウスみたいな事だけはもうやりたくないということだった。
さすがに二年もやれば、ああいうビートポップには飽き飽きとしてくるし、新鮮さやワクワクを感じられない。
おまけにジョリーが、そんなハウス路線を忠実に引き継いでやって行くと聞いたので、俺は益々自分の引出しの中で違うことをやらなければと思った。
 
そう思い始めた時、ハッとあることが思い浮かんだ。
それは「ルーズ」と「プッシー・ジャック」の事。
前者はハウスの前身になったロックンロールバンドで、後者は一時手伝いでやった、これまた同じくハードロックンロールバンドである。

 

そうだ!!

 

今こそロックのダイナミズムを見せる時じゃないか!!

 

ハウス後期のカツミのトラウマというか、日本のミュージシャンになんか多いと思う、「ロックはやっぱりブルースに根差したルーツ・・・うんぬん」

そうした箔をつけたがるような御託を述べるヤツの多い事多い事。

 

ロックは「ソウル」が「ブルース」が、「ジャズの知識が・・・」うんぬん、メンドクサイ理屈じゃあない!!

デカイ音でガイーンと、勢いと興奮で、カッコ良くやりゃあいいんだよ!!

 

俺はここで、ギターの原点に戻ろうと思った。
ハウスの時は、時流とか、思い込みもあり、ニューウェーブやポストパンクみたいなギターをチマチマやっていたが、思えば最初に俺がギターで初期衝動を感じたのは、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジのギターリフとか、エアロスミスのツインギターのダイナミズムだった。
俺はずっと長髪だったし、やはりまたライブでのし上がろうというのなら、そういうダイナミックなロックンロールがいい!
 
丁度この頃俺は、ガンズ・アンド・ローゼズのファーストや、初期AC/DC、エアロスミスの「パンプ」あたりのアルバムにイカれていて、そうしたハードロックなバンドばかりを、かなりヘヴィーローテーションで聴いていたということもあった。
その趣味をハウス後期の頃は、カツミにずいぶん屈辱された!!
 
これらをいろいろ思った結果、俺は次はうってかわって、ギターリフでガンガン押して行く様な音楽をやろうと思った。
日本には、ヘヴィーメタルとか、アースシェイカーやジギーみたいな、どこか日本の歌謡的ニュアンスを感じるパワーPOPはあるけれど、リフでガンガンやるような、ルーツを感じるハードなロックってありそうでない。
そういう、ヘヴィメタルでは決してない、ロックの衝動を余すことなく感じられるヘヴィーで攻撃的なハードロックを日本語でやりたい。
その手のものすごいカッコいいバンドを作って、俺をナメくさったやつらを見返す!!
そう思うと、なんだかいきなり闘志が沸いて来た!!

 

と言うわけで、基準が決まれば後は簡単だった。
俺はいくつかその手の、ギターリフでワイルドにぐいぐい押してゆくような曲を作った。
いわば、初期のパールジャムや、サウンドガーデンみたいな音楽の先取りだ。
スーツにネクタイで、サウンドはまるでスタイル・カウンシルみたいだった最後期のハウスからは、相当な大変身だ!
ハウスのファンたちは、このあまりの変わりように、唖然とするだろう!!
ざまあみろだ!!

 

とはいえ、ヨッチやジョーが、その手の音楽を好きだという話しは聞いた事がなかった。
もしかしたら、ハウスを期待してるに違いない彼らには拒否られるかなと思った。
だが、曲を実際聞かせてみると、彼らは過去にハードロックのコピーをしていたらしく、ハードなギターリフサウンドに嫌な気持ちは無いようだった。
それより、デモを聞いたジョーが興奮しながらこう言ってきた。
「いや~!!これはかっこいいよ!やっぱおまえ天才だよ!」

 

ジョーは大袈裟に続けた。
「まあ、俺はおまえとだったら、どんな方向でもやれると思うけどね!!!
おまえと運命を共にする気持ちでいるしさぁ~! このバンドに命をかける覚悟だから!!
おまえを信用してるから、絶対、俺に夢をみせてくれよなっ!」

 

…俺はバンドの勢いを殺がない為、彼のその台詞に控えめに「おお…」と答えた。
しかし、内心凄く言葉に出来ない嫌な気持ちになっていた。
確かにバンドは自分達にとって、重要なのは間違いないが、何も命をかけるとか、信用とか…
ジョーはこれまでも、熱くなるとすぐそういう台詞をサラッと吐いた。
しかし、軽々しく信頼とか、命がけとか言う奴はなんかうさんくさい。

 

だが俺はあえてその気持ちを押し殺した。
とにかくまず大事な事は、あれこれ言わず無事スタートを切ることである。