唐突ですが、ホームページが閉鎖になってしまったので、かつてそこで執筆、発表していた、わたしのバンド青春自叙伝をこちらに移します。 物語風に、やや脚色しながら(笑)
以前ホームページで読んだよ~という方も多いでしょうが、スルーしてください。
というわけで、時は1984年の終わり頃にさかのぼります。
オレは昔から、いつも嫌なことがあると、荒川土手に行った。
東京北区赤羽の実家、墨田川沿いに建つ高層団地から五分。
この広々として気持いい土手に来ると、ストレス、イライラも吹っ飛ぶような気がした。
この日…、高校一年の二学期も終わりに近いある日、またまた冴えない顔して、オレはここにやってきた。
「なんか良いことないかなぁ…」
初めて結成したバンド、「モビー・ディック」から抜けたのは、ついさっきの事だった。
抜けたと言えば聞こえはいいが、ぶっちゃけて言うと、自分以外のメンバーが俺抜きで新たにバンドを再編したのだ。
メンバーを苦労して集めた、結成者と言っていいオレが、単にのけ者、クビになっただけだった。
先日、全員が口裏あわせたように、バンド抜けたいと電話してきて、おかしいなとは感じていたが、その後(今日)みんなでスタジオに入ってることを知りショックを受けた。
そうなってしまった理由は多分、オレが複雑な性格で、普段から小さなことで、しょっちゅうメンバーとトラブルを起こしていたこと。
そして、ストーンズやT・REX、ザ・フー、ハノイロックスなど、古いロックンロールがやりたいと思っていたのは、俺だけだったからだろう。
あいつらは、最近ラウドネスやアースシェイカーなど、日本のヘヴィーメタルに目覚め、そういうテクニック指向の曲ばかりを、みんなコピーしたがっていた。
俺はあんなスパッツ履いて、「神風~」みたいなバンダナをして、ギターの速弾きに命を懸けるみたいな、ジャパメタの何がいいのかまるで理解できなかった。
要はやつら、そんな日本のヘビイメタルがやりたいことで一致していて、あげく元から俺のことが好きじゃなかったのだ。
思えば昔からこうだった。
いつも何かに目覚め、号令を出し、動くのは俺。
で苦労して完成すると、いつもおいしいところだけを持って行かれ、仲間はずれにされてしまう。
それは小学校の頃…いや、もしかしたらそれ以前からずっとそうだったかもしれない。
「おまえはみんなに合わせないから嫌いだ!!」
何度こう言われたことか…。
俺は怒りで一杯だった。くそっ、馬鹿ども!
本当、世の中はまるっきりおかしい。
皆でなあなあと、表向き、馴れ合いばっかりしやがって、それでなにがロックンロールだ!!
くだらない事をくだらねぇー、ダセーものをダセー、ダメなものをダメと言って何が悪いんダッ!
モビーディック↑
右端が俺。
フライングVは自分のものではなく、弦が切れて急遽他のギタリストから借りたか何か?
ツェッペリンの「ロックンロール」やストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」T-Rexの「ゲット・イット・オン」なんかをコピーしました。
と、その時「おーい」と後ろで声が聞こえた。
振り返ると、アキオがギターケースを持って立っている。
最近俺は、このアキオというヤツと二人で、フォークユニット「檸檬」を始めたばかりだった。
初めのうち彼とは、そんなに親しくもなくて、いつも教室の一番前の席でノートをとっている、何かクソ真面目そうな奴という印象しかなかった。
そんな彼と話すようになったのは、オレがロック部である噂を耳にしたからだった。
「あのH組のさ、ぱっとしないアキオ。あいつ実はフォークギター、むちゃくちゃ上手いらしいぜ!」
俺はロック一筋だったが、実は昔からフォークギターにも大きな関心があった。
日本のフォークや、「サイモン・アンド・ガーファンクル」が、実はコッソリと好きだったし、ビートルズ、ストーンズ、そしてツェッペリンにも沢山フォークギターを中心とした楽曲がある。
俺はある日図書館で、思い切ってアキオに声を掛けてみた。
「話しきいたよ。フォークギター上手いらしいじゃん!!」
アキオは知らない男からいきなり声を掛けられ、思いきり引いていた。
「いや…、突然言われても…。別に上手くはないけど…」
「じゃさ、ちょっと今からさ、一緒に部室で弾こうよ!」
「で、でも授業あるし…」
「いいじゃん、そんなのさぼっちゃえば!!」
俺はうろたえるアキオを強引に部室につれてゆくと、早速ギターを取り出し弾かせてみた。
「うわー、マジで上手いねぇ!!」
彼は見たことも無い、フィンガーピッキング奏法を、惜しげも無く披露した。
噂はガセネタではなかったのだ。
「なあ、ちょっと俺にもそれ教えてよ。」
「いいけど。まず親指がこうで・…」
「こんな感じか??」
「ああ、なんだ、飲み込みはやいねぇ。もう結構雰囲気出てるよ。」
俺は夢中になって、フォークギターを奏でた。
「いやあ、これは面白いや!! 独りでも曲になるし、実はエレキより楽しいかもなぁ…」
「へぇ、エレキギター弾いてるんだ??」
「うん、ストーンズのコピーバンドやってる。」
それを聞いて、アキオがハッと思い出した様にこう聞いてきた。
「もしかして、先月の文化祭で、中庭で派手な格好で爆音演奏していた・…」
「あ、そうそう、あれ俺達だ!」
「えー、あのライブ俺見たよ!!」
「ああ、そう?」
「いや、音がでかくて何やってるかわかんなかったけど、格好いいバンドだったよね!」
「そうか…?」
俺は彼に言った。
「なあ、アキオはさぁ、ツェッペリンの天国への階段って曲知ってる?」
「ああ、知ってるよ!」
「弾ける?」
「何となく…」
「じゃ、俺エレキ弾くからさ、一緒に合わせてみようぜ!!」
俺達は天国への階段を弾いた。時間はあっというまに過ぎていった。
彼とはそれ以来毎日つるむようになった。
俺とアキオが通っていた高校には、音楽系の部活が三つ、ロック部と軽音楽部と吹奏楽部があり、俺はロック部に所属、アキオは軽音楽部に所属していた。
軽音楽部は時節柄、まじめに演奏している部員はアキオ一人だけ。
勿論これでは部活なんか成立しないので、軽音楽部は軟派な連中のサボり、コンパの場所と化していた。
居場所の無いアキオは、荒川土手でいつも練習していた。
やがて、バンドがなくなってしまい、彼とのコンビだけになった俺は、ある提案をした。
「俺この際ロック部やめてさ、アキちゃんと同じ軽音楽部に入り直そうと思うんだ。」
「入るも何も、あんなの名前だけの部だし…」
「いや、でもあそこにはでかいマーシャルとフェンダーのアンプがあるだろ! 八チャンネルのモニターもあるし、それに予算もでる!」
「でも部室は、あいつらの溜まり場になってるし…」
「あんな連中、追い出そうぜ!」
俺はアキオを連れて、颯爽と部室に乗り込んだ。
階段の下の、窓の無い半地下みたいな場所。
中には案の定、当時流行りのDCブランドの服で決めた男女が戯れていた。
俺は彼らを無視するように、ギターをマーシャルにつなぐと、爆音でリズムを奏ではじめた。
戯れていた連中はぎょっとした顔で、しばし唖然としていたが、やがてまたベタベタしはじめた。
くそっ!まけるものか!
お互い意地になっての根気勝負になってきた頃、見かねたアキオが俺にこうつぶやいてきた。
「ねえ、今日のところはもうやめようよ。あっ、それより俺今クラッシックギターに興味あるんだ。今からさ、吹奏楽部に行って弾かせてもらおうよ!!」
俺は彼のその言葉にうなずき、部室をあとにした。
(今日のところはこれで勘弁してやる!)