俺たちは続けて、さらに、二回目、三回目と、月一、二回ペースで、ライブを決行した!!
勿論、演奏は、毎度毎度、笑ってしまうほどデタラメで、明らかにダメダメなはずなのだが、何故か常にライブは大ウケの大盛り上がり。
恐ろしいことにファンは増えてゆくばかりだった。
それもハウスと違って、今度は男が多い!!
俺のスパルタ教育で、メンバー間にいつもギリギリの緊張感が生まれていて、そんな追い詰められた空気が、ダメな演奏を返上するだけの何かをバンドに与えてるようだった。
だがしかし…
だからと言って、とりあえずこれでいいやと、俺は納得する気はなかった。
他のやつらは、ライブ経験も少なく、受けてるからいいじゃん!みたいな雰囲気になってきたが、根本がしっかりしてなければ、絶対に長持ちはしない!!
それにこんな高校生バンドがやれるレベルのところで、少々ウケたくらいで、至極満足げな顔してるやつらに、俺は益々怒りが沸いてきてしまった。
ハウスでの経験から、俺は世の中の一級バンドはこんなものではないと、痛いほど良く知っている。
メンバーの年齢は、みな同い年で変わらなかったが、俺たちには決定的な経験の差があった。
この差は、相当大きくて、あれこれ言葉で話しても、なかなか伝わるものではい。
特に、イケイケ大学サークルノリのままのジョーには、まるでわかってもらえない。
一番悲惨で、足を引っ張ってるにもかかわらず、ヤツにどこか切迫感がないのは、その性格もそうだが、ヤツ自身が現実を知らないというのもあった。
俺はこんな彼らをみて、次第に、これはもう口で厳しく、ああだこうだ言ったところで無駄だと思った。
そして代わりに考えたのが、俺の友達で、トップクラスバンドのライブを、一度メンバーに見せてみたらどうかということだった。
実際にレベルの高い演奏を目の当たりにすれば、奴らも俺の言いたいことがわかるだろう。
ということで、三人でバンドスタートしてから、約一年過ぎようとしていたある日、俺はメンバーを引き連れ、人気のロックンロールバンド「ゼリーズ」と「ヴェレッツ」を見にいった。
彼らの、ハイクオリティーな演奏を目の当たりにして、メンバーは皆唖然としていた。
その反応は、俺が予想していたよりはるかにすさまじかった。
計算外だったのは、そのライブを見終わった後、ヨッチが、「バンドを辞めたい…」と言ってきた事だった。
叱咤激励による発奮目的だったが、なんと、諦め、割り切りへと繋がる結果になってしまった。
ヨッチは俺には切り出しづらかったのか、ジョーに電話でこう言ったらしい。
「彼らの演奏を見てふっきれた…。前からjagとも次元がちがうなぁとは思っていたけど、俺は全然通用しないんだって事が本当、身にしみて良くわかった…。これでもう心おきなく故郷に帰って家業を継げるよ。」
1991年10月、ヨッチはいきなり予想外の脱退となった。
最初にそう誓った俺達だったが、早くも脱退者が出てしまった。
それも一番初めに加わったメンバーが…。
演奏的視点で考えれば、彼の脱退はむしろレベルアップのチャンスだったが、精神的には付き合いが長かっただけに、俺はガックリした。
おまけに彼は、許しがたいことに残ったライブ、スタジオを一切放棄して抜けてしまった為、俺はヘルプを、後に「アトミック・ファイアーボール」というバンドでプロデビューするイタル、ルーズで一緒にやった長谷の二人に頼んだ。
二人は快く了承。
それぞれのスタジオやライブで、代わる代わるプレイしてくれた。
そして、ついでに俺は、この際もう一人バンドにギタリストを加えてみることにした。
その相手は、ハウスの前身バンド、ルーズでやった、ハードロックギタリストのジュンである。
彼は最近ずっとアメリカにいて、帰国してきたばかりだった。
俺は彼に、すでに決まっている、11月、12月、1月のライブに参加してくれる様に頼み、快く了承をもらった。
ロフトや、ライブステーションに出演するような、上手いドラムに変わっただけで、バンド演奏は全く別の次元になってしまった。
特にずば抜けてうまい二人が、代わる代わる叩いたので、ダメなジョーがいるのに、それをもかき消すプロフェショナルな演奏に様変わりした。
ベースがダメでも、二本のギターの絡みと、しっかりした骨太のドラムでもうバッチリ!
「俺たちはベースレス・バンドだから!」
そう、きつい冗談で笑い合う俺たちに、ジョーは怒ることもなく、「こりゃ参ったな~」なんてヘラヘラと笑っていた。
オレは、そんなヤツの能天気さに、イラッとして仕方なかったが…、しかしもうヤツなんかどうでもいいほど、バンドは満足な演奏をしていた。
俺達はこの新編成で、残りのライブに臨んだ。
ヨッチ、辞めてくれてどうもありがとう!!
ライブハウスは、今回は少しランクアップして新宿アンティノックを選んだ。
これまで地道に付けた高校生ファンや、ハウス関係者で満員だった。
俺は大いに自信があったので、今回のライブから、ジョリーを始めハウス関係者も招待していた。
俺たちの演奏がはじまると、客は大興奮、大熱狂になった。
ハウス解散後、田舎の後輩、モリコブと新バンドを結成したものの、全然ふるわず、最近ライブハウスのレギュラーをクビになってたジョリーは、ジャグノイズの現実を目の当たりにし途中で怒って帰ってしまったという。
そりゃそうだろう。
「ジャグノイズ」でありながら、このバンドは伝説の「ルーズ」を再現しているのだから。
あの時ここまでまとまっていれば、今ごろ俺の運命も違っていただろうに…。
というわけで、こうして一通り入っていたスケジュールを、満足気分一杯のうちに俺たちは次々と片付けた。
おまけに、またまた都心の一流ライブハウスから出演依頼をもらうなど全ては上り調子!
ジョリーやカツミにも差をつけ、ハウスメンバー中では、わずか一年にして、俺は早くも圧倒的勝利をつかんだ!!
やっぱハウスのそこそこの成功は、俺のおかげが大きかったのだ!!
見たかオレの実力を!!
ははははは!!