バンドヒストリーはじめから↓

 

 

 

新たに始めたアルバイト先のバンドマンに、年末イベント参加を求められ、
ベースの涼は、メンバーもいないというのに、勝手に快諾してしまった。

 

その歓迎会の帰り、「いや~、俺達の新たな目標が決まったな!!」などと、スッカリ浮かれまくる涼に、俺は呆れて突っ込んだ。
「おいおい、どうするんだよ!!!ライブも何も、メンバーすら今いない状態じゃないかよ!!」
すると涼は、いつものなんだか軽い感じで、
「心配するなよ~!!大丈夫だって!!俺の幼馴染にドラムやってるのがいてさぁ~、そいつに頼めないかと思っているんだよ!
そいつ、めちゃめちゃ上手い奴なんだぜ!」
そもそもこいつの知り合いという時点で、全くあてにならん話だなと思ったが、奴がその幼馴染のライブがあるから一緒に見に行こうよ、としつこく誘うので、とりあえず見るだけは見に行くことにした。
1987年、6月頃の話である。

 

見に行ったバンドは、正直ボーカルをはじめ、まるで駄目駄目だった。
なんちゃってBOOWYって感じで、とてもお話にならない。
だがそんな中、例のドラムだけは、確かに涼の言うとおり、「上手かった」。
叩いている時のノリや疾走感あふれるリズムに、他人にはない惹きつけるものがあり、目が釘づけになった。
俺は不思議だった。
なんでこんなヘナチョコバンドに、彼のような素晴らしいドラマーがいるのだろうか?

 

ライブが終わったあと俺は、このドラマー、ヒデくんこと風間秀夫(仮名)に話し掛けてみた。
彼は実際話してみても、非常に感じの良い魅力的な男で、おまけにとても謙虚だった。
「うちのバンドもやってみない?」
話しの勢いで言った俺のその言葉に風間は、「俺なんかみたいなヘッポコで良ければいいですよ!」とあっさり答えてくれた。

 

とにかくこうして風間がやると答えてくれたので、俺は俄然元気になった。
俺はこの際、一気にバンドをリニューアルしようと思った。
これまではビフォア時代を引きずった、ややポップス調の柔いサウンドでやってきたけれど、もっとロックなバンドがやりたいってずっと思っていた。
そこでまず最初に、目黒のハードロックの殿堂ライブハウスでレギュラーを持ってきた、友人のメタルギタリスト、ジュンをリードギターに誘ってみることにした。
彼が最近、「バンド解散してさぁ~、今オレ、ヘヴィーメタルよりもロックンロールがいいなって思うようになっちゃって、例えばハノイロックスとかエアロスミスとかさ、ああいうのを最近は良く聴いてるんだよ~!」なんて話していたのを思いだしたからだ。

 

彼は俺のデモを聴いて、「かっこいいジャン!!」と即一緒にやることを快諾してくれた。
彼の加入は、演奏能力が文句ない分、バンドのパワーアップは約束されたも同然だった!!
ヴォーカルは引き続きマリがやることになり、そしてベースは勿論、涼…
 
というわけで、思わぬ形でバンドは息を吹き返すことになった。
オレと涼は、その新バンドのリハをしながら、毎日のようにバイトに通い精を出した。
 
慣れてくるにつれ、バイトは予想外に新鮮で面白いと感じるようになってきた。
それまでやっていた新聞配達とか、ヨーグルト工場の箱詰めなんかより、自分にははるかに向いてる気がした。
オレは毎日生き生きと、楽しくファミレス通いをした。
何事もやってみなけりゃわからないものだ。
バイト仲間も、みんな楽しくていいやつばかりだった!
勿論、毎日夜に、いい感じで会いに来てくれる、サヤカの存在が一番だったけれど…。

 

しかし、そんなある日のことだった。
バイト中に、一緒に入ってた仲間の一人から、いきなり聞き捨てならない話を耳にした。
それはなんでも、
涼は実はサヤカが好きで、サヤカもそれに、まんざらでもないという話…。

 

オレは取り乱すというより、????、ばかりが頭をよぎった。
確かにサヤカと涼は、仲は悪くはなかった。
とはいえ、二人が互いに出かけたり、ベタベタすることはなく、それ以前に涼には、バンドメンバーにもなってるマリという彼女がいる。
オレも高校の後輩とまだ別れてたわけではなかったので、人の事は言えないが、とにかくあまりに思いがけない話しだったので、軽い衝撃を受けた。
その一緒にはいっていたバイトが、不思議そうに、
「オレはjagくんとサヤカが付き合ってるもんかと思っていたけれど、違うの??」と聞いてきた。
「いや、付き合ってはいないとおもうんだけれども…」
曖昧にしか答えられないオレ・・・。

 

しかし、当のサヤカは、それからも何にも変わる事がなく、「jagく~ん!」と、毎回会いにきては、渋谷だ自由が丘だとオレを連れて行った。
この様子を見てると、噂は何かの間違いとしか思えない。
ところが、それから数日後のこと。
いきなり涼が、バイト後にオレを呼び出し、こんなおったまげることを言ってきた。
「あのさ…、同じバンドメンバーの、親友のおまえを騙してたみたいで本当に悪いんだけれど、今からオレの偽らざる思いを話すから聞いて欲しい…。
オレ、実は、前からサヤカが好きだったんだよね~!!」

「ええっ…。」

 

涼は、驚く俺に、何度も悪いを連発しながら、こんなことを言った。
「…でさ、オレ、お前の気持もわかるんだ! 最初はオレもさ、お前ら見て諦めようと思ったんだけど…、でも考えれば考えるほど苦しくなってきたんだよね。だからさ、この際二人で彼女に告白して、ハッキリさせないかと思ってさぁ~。
どちらが勝っても、男同士恨みっこなしってことで!!」

「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ…」

オレは困惑した。
いきなりそんな告白だ、恨みっこなしだとか言われても、全然心の準備がないばかりか、それ以前に大体おまえもオレも、彼女とまだ別れてないじゃん!
しかし涼は、名前のごとく涼しい顔で、「おまえもおれもどうせダメなんだから、今の彼女とはきっぱり別れるんだよ!!大丈夫!!マリにはバンドはバンドと割り切って、その点は別れても迷惑かけないようにって、そういった話はもうしてあるんだよ!てなわけでさ! これは男同志の真剣な話だからな!オレがここまで真面目に思ってるんだからよ、おまえもオレに応えて、けじめをつけてくれ!!それが彼女への気持だと思うからさ!!」

 

涼の、なんだかよくわからないアツさに、オレはついていけない気持になったが、しかし指摘されたサヤカへの気持は、確かにその通りだったので、オレは引っ込みがつかなくなった。