久しぶりに文楽を鑑賞した。 ちょうど前日が討ち入りの日。討ち入りが終わり、四十七士が雪道を引き上げて行った頃から数百年後の朝、私は国立劇場で仮名手本忠臣蔵の文楽を鑑賞していた。 前回の歌舞伎と同じ出し物。人間が演じるのと人形が演じる違いを楽しむ。

我々が知っている江戸時代の実話ではなく、仮名手本では室町時代をバックに起きた刃傷沙汰という設定に脚色されているので、なんとなく違和感があり、人形の動きまでぎこちなく感じたのは、久しぶりの鑑賞の所為か。しかし時間がたつにつれ、人形の動きが自然になり、操っている人たちが全く気にならない。3にんで一体の人形を、人間以上に人間らしく、表現する。こちらの気持ちが入っていくに従い、人形が人形ではなく人間となっていく。手の動き、顔の動き、足の動きなど、完璧にシンクロして、心を吹き込まれる。

鑑賞者と演者が一体となる。これぞ芸術作品。

義太夫の声が、いっそう見る者のを心を駆り立て、ストーリーに入り込む。

古典芸能は特に文楽はなんとなく難しいと敬遠されがちだが、文楽は義太夫のセリフが舞台横に表示され、解説がなくても比較的わかりやすい。その日はほとんど満席だったが、もっと多くの人の身近な日本の伝統芸能であることを実体験してほしいもの。

人形劇はヨーロッパでもアジアでも、古来から現代にまで受け継がれている。紙人形、影絵、プペットなど、人間は人形に気持ちを託して歴史の事象を表現しようとし、昇華していった。その中で総合的に文楽はやっぱり素晴らしい。

国立劇場を出るともう夕方。家路に急ぐが、気分はなんとなく充実している。