主翼形状-1
1 アスペクト・レシオ
「第5話」で話したように、本機のレイノルズ数であれば、
アスペクト・レシオは10前後で滑空比を最大にしてくれる。
しかし、アスペクト・レシオが大きいということは、
翼が細長いことを意味しているから、強度と剛性がつらくなる。
現実の症状としては、打ち出し直後の高速で、
翼がねじれる等の変形による空気抵抗の増加から、
性能低下を引き起こすことになる。
つまり、空力と構造の調和点は、
アスペクト・レシオが少し小さ目なところにあるわけだ。
さて、理屈はほどほどに。
実務屋は、数値を決め、次の作業に移らなければならない。
これらから、アスペクト・レシオは少し積極的に、9.0と決めた。
なお、私のシミュレーションには、
レイノルズ数変化による抗力の変化が、折り込まれている。
2 上反角
「第9話-5 傾き」で述べたように、
垂直姿勢で打ち出した機体が、減速と同時に徐々に水平になりながら、
高度と半径を維持するという、
絶妙な上反角を見出さなければならない。
しかし最適な上反角がいくらなのか、分からない。
上反角効果を出す要素として、
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主翼の上反角
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胴体と主翼との干渉で生じる上反角効果(高翼の場合プラス)
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垂直尾翼が上向きにつき出していることで生じる上反角効果
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翼の後退角によって生じる上反角効果
サイドスリップにより、「+」の部分の圧力が増すことにより、
バンクを復元させるモーメントが発生する
それぞれの上反角効果には、
スリップ量の変化に対する、復元力(モーメント)に癖もある。
特に、後退角では、その上反角効果が揚力係数につれて変化する。
つまり、小さな揚力係数で飛行しているときは、上反角効果はほぼゼロで、
低速飛行など大きな揚力係数で飛行しているときは、大きな上反角効果を発揮する。
さて、議論はほどほどに。
実務屋は方針を決め、次の作業に移らなければならない。
上反角は、主翼中央部で0度、翼端付近で約73°(1号機)と決めた。
これは、試験飛行中、上反角を自由に変えることができることに加え、
打ち出し時の傾け角(バンク角)をゲージに合わせる場合、
中央翼が直線であることは、扱いやすい。
3 折り曲げ部
翼端上反角の折曲げ部分の形状だが、
かどを付けて折ることは空気抵抗を増加させる。
戦時中の戦闘機などの低翼機では、主翼と胴体の接合部には、
大きなフィレット(成型板)が取り付けられているものがある。
主翼表面を流れてきた気流は摩擦などにより、速度を失っている。
そこへ、胴体側からも速度を失った気流が流れてくる。
出会った部分で気流が失速剥離し、渦を巻き、抵抗となるというわけだ。
もちろん揚力も失う。
フィレットは、胴体と主翼の結合部分が直角になるところを、
大きなRでつなぐことで、気流が乱れることを防いでいる。
本機では、緩やかなカーブで上反角部につなぐことで、抗力の増加を防いでいる。
翼断面は一枚板に、後縁付近にキャンバーを付けた形状だから、
このカーブによって、R部はキャンバーがキャンセルされており、
さらに剥離しにくくなっているわけだ。
主翼上面形状(右が前縁)
主翼下面形状(右が前縁)
これに類似したアイデアとして、川崎重工業が特許を取得している例もある。