1 つばさ(主翼)の性能
主翼には自重を支える役割がある。
この力を揚力と言い、普通に真っすぐ飛んでいるときの揚力は、
自重と同等でつり合っている。
もし自重より揚力が大きくなれば、持ち上げる力が余っているわけだから、
その分機体は上昇し、Gがかかる。
逆に、揚力が小さければ、降下することになる。
もし急旋回をしようとするなら、上舵(あげかじ)をとって、
より揚力を大きくし、その分Gをかけることになる。
揚力 = 合力 G = 合力/自重
2 空気抵抗
揚力を発生させる主翼は、同時に抗力(抵抗)も発生させる。
抗力が大きいということは、滑空比(揚抗比)が悪いわけだから、
グライダーなら、同じ高さから遠くに飛べなくなってしまう。
今回のように、減速しながらの水平飛行であれば、
抗力が大きい分、早く減速するから、複数回の旋回は難しくなる。
つまり、多数回の旋回のためには、大きな揚力を発生させながら、
抗力をどこまで小さく抑えられるかがポイントとなる。
3 トンボの翅
紙飛行機の飛行領域は、旅客機より、昆虫や鳥に近い。
昆虫のように、小型でゆっくり飛行する場合は、
抗力減少の手段として、流線型は必ずしも通用しない。
トンボは飛行性能が高いことで知られているが、
翅の断面は、ギザギザだ。
小さい物体の回りをゆっくり流れる気流(流体)の中では、
空気は翼に粘りついてしまい、抗力が大きくなってしまう。
トンボの翅はこれに対抗し、自然選択の中を生き抜いてきた結果の形なのだ。
ギザギザや、ヒゲ、微振動などは、空気分子が粘りつくのを防ぐ。
トンボの翼断面はギザギザしているが、谷で小さな渦を作ることによって、
全体の流れは、きれいな流線型となっている。
勢いの良い流れが、翼の表面に触れるチャンスを少なくし、
抗力の増加を抑えている
4 火星探査
日本の宇宙探査計画には「火星飛行機の実現をめざして」というテーマがある。
JAXAのサイトによれば、翼幅(スパン)約2.5m、機体重量約4.2kg、巡航速度約60m/秒、の火星飛行機が開発されていると、説明されている。
火星は空気密度が地球の1/100程度と低いため、
このスペックでも、物理現象(レイノルズ数という値で評価する)としては、
地球上の手投げグライダーレベルとなる。
つまり、火星探査機の研究成果が紙飛行機にも使える可能性があるわけだ。
論文によると、翼型性能を向上させるポイントとして、
下面は、中央に凹みを持たせながら、滑らかなカーブで結ぶ
上面中ほどには、わずかな凹み、あるいはフラット面をつくる
前縁付近は滑らかなカーブにする
あるいは
紙飛行機と似た、薄翼+緩やかな円弧翼、
などが良いと解説されている。
これらを、翼型設計の要素として使うことにした。
5 誘導抵抗
難しい言葉が出たが、この抵抗はすこぶる大きいから要注意だ。
小さく抑え込みたいのだが、翼を細長くするしか対策がない。
第5話で触れたが、翼の細長さのことをアスペクト・レシオと言う。
本物のグライダーの主翼が細長いのも、
旅客機の主翼が細長いのも、
この抵抗を小さくすることが目的だ。
翼下面は圧力が高く、上面の圧力は低い、
この圧力差が揚力の正体だが、
圧力が逃げるため、翼端から渦ができる
これが、誘導抗力の原因だ
私が学生時代に作った、
人力飛行機STORK号のアスペクト・レシオは、20.44もあるが、
それでも飛行機全体の空気抵抗の、約半分を占めている。
パイロットが懸命にこぐ脚力の半分は、
実は、誘導抵抗として消費しているわけだ。
それで、私の紙飛行機の翼も、理論に立脚し程よい細長さとした。