そして,大蛇竜の顔がある程度見えたところで,リンネがその顔目がけてラッシュをかけた後,フーカが耳元目がけて足先から練り上げた力を拳足に乗せて撃ち出す「断空」という技術による打撃,覇王断空拳を放ち,隙が生じたところで,リンネが大蛇竜にスリーパーホールドをかけた。
大蛇竜はおそらく爬虫類の様なものであるから,首を絞めれば呼吸困難に陥り,倒すことが出来ると判断しての対応であった。
確かにその理屈自体は間違っていない。しかし,リンネの技は完全なものではないのである。
夏,二人が口論になった時にリンネがフーカの首を絞めたものの,覇王断空拳で技が解かれ,フーカは脱出に成功した。
本気で絞め上げる気のなかったあの時の首絞めと,そのつもりでかけている今回のスリーパーホールドとは威力もフックも全く異なる。
しかし,何か強い攻撃をリンネに与えることで,隙を生じさせて脱出できるという点は同じなのである。
大蛇竜は短い前足でリンネの身体を殴った。
なまじ強く絞め技をかけていた為に,リンネは避けることさえ出来ずに,脱出を許すのみならずダメージを追ってしまった。
しかも,それから勢いよく大蛇竜が飛び出したことで,突風が生じ,リンネは洞窟の周りの岩場に叩きつけられてしまった。
「リンネ!」
フーカが親友の身を案じ叫んだ。
彼女は次の覇王断空拳に向けて気を溜めていたが,飛び退きにより何とか突風の影響を受けずに済んでいた。
「大丈夫。直接受けたダメージは大したことないから」
リンネはそう答えたものの,暫くは体が動かない状態に追い込まれていた。
一方,大蛇竜は再び空高く舞い上がると,口を大きく開けてそこから火の玉を吐き出した。
ピッピーから大蛇竜の攻撃パターンは突進のみと聞かされていた二人はこれに驚いたが,これは単にピッピーが戦った際には大蛇竜がこの攻撃を用いなかっただけの話である。
上空から降り注ぐ幾つかの火の玉のうち1つはリンネが倒れている地点に直撃する軌道である。
これに気付くと同時か,それよりもやや早く,フーカはリンネの前に立ち,魔力を拳に溜めた。
そして,あと数メートルというところまで迫った時点で地面目がけて覇王断空拳を放った。
すると衝撃で土砂が舞い,一瞬不燃性の防御壁が生じた。これにより,火の玉は掻き消され,二人は難を逃れた。
「ありがとう。フーちゃん」
フーカの行動の意味を理解しているリンネは,身を呈して自分を守ってくれた親友に対し御礼の言葉を述べた。
「リンネはわしの一番大事な幼馴染じゃからな」
フーカはそれだけ口にすれば二人にとっては充分だということを知っていた。
「でも,作戦の立て直しかな」
「ああ。あの攻撃は厄介じゃ」
未だ倒れたままの状態のリンネとフーカが話し合う。
「とりあえず,奴が空の上にいる間は,わしらは手を出せん。降りて来るところも厳しいじゃろうが1つ手がなくはない。わしはそれをやってみる。それが成功したら,おそらく奴は地面に倒れるはずじゃ。そこで一気にラッシュをかける。加勢できそうならお前も頼む」
「分かった。でも,もし失敗したら?」
「奴はまた地面に潜るじゃろうから,次に顔を出した瞬間に,本当に少しだけ顔を覗かせた瞬間に奴の頭を連続で踏みつけてくれ。その時,まだわしも戦えるなら,わしも行く」
リンネはフーカの最後の言葉「まだわしも戦えるなら」という部分が引っ掛かった。その時にはもうフーカが戦えなくなっている可能性が少なくない様な言い方に聞こえたからだ。
「フーちゃん,その手っていうのは危険な手なの?だったら止めてよ。フーちゃんにもしものことがあったら,私……」
そう訴えかけるリンネの顔には悲哀の色が滲み出ており,目には涙さえ浮かんでいる。
そんな親友に対し,フーカは「最悪の可能性を言ったまでじゃ。それに,その場合でも今のリンネみたいに暫く動けなくなるくらいじゃろう。安心しろ。わしは頑丈な方じゃ。知っとるじゃろう」と笑顔で語りかけ,安心させようとした。
リンネは「うん」と呟くと,ゆっくり立ち上がった。
「もう大丈夫なんか?」
「フーちゃんが頑張って戦おうっていう時に,私だけ寝ている訳にはいかないよ。うん,大丈夫。もう戦えるよ」
リンネは手を握ったり開いたりしながら,自分の運動機能に異常がないことを確認し,そう答えた。
その時,再び1つの火の玉が二人目がけて飛ん出来たが,今度は二人で移動することで難なくこれを避けた。
「なら,次にあいつが降りてきたところで,勝負に出るぞ」
「うん」
そう言葉を交わすと,二人は空を見上げ,大蛇竜の動きに注視し始めた。
大蛇竜も,火の玉による攻撃が功を奏しないことに気付き,再び地面に向けて突進し始めた。
「よし,行くぞ」
そう言うとフーカは走り出し,大蛇竜が降りて来るポイントに立った。
そして手に魔力を溜め,自分の間合いに相手が入る少し前のところで上に向けて拳を放った。
「覇王空破断」
覇王空破断
掌打と共に強烈な衝撃波を飛ばして攻撃を行うものであり,フーカの師であるアンダー15のワールドチャンピオン,アインハルト・ストラトスが考案した技である。
フーカの読み通り,攻撃はヒットした。
しかし,大蛇竜の突進は止まらず,フーカは辛くもこれを避けたものの,相手は地中に潜ってしまった。
「よし,こうなったら第二プランの方でいくぞ」
「うん。顔を少し出したところで踏みつける。だね」
確認し合った後,程無くして大蛇竜が顔を出したところをリンネが何度も足で踏みつける。
体の大半が地面に埋まっているせいで逃げることも反撃することもできない大蛇竜は,リンネの攻撃を受け続けることしか出来ない。
途中からフーカが加勢し,大蛇竜はとうとう2人分の攻撃に絶えざるを得なくなった。
そうこうするうち,とうとう大蛇竜の顔が地中に埋まってしまい,再び地中を移動することを許してしまったが,もう一度顔を覗かせたところに同様の手段で攻撃を加え続けたことで,とうとう大蛇竜は脳死の状態に陥り,絶命を余儀なくされた。
しかし,そのことを確認できない二人は暫くの間攻撃の手を緩めはしなかった。
二人が勝利を確信したのは,再び地面に大蛇竜の頭が沈んだものの,地中を動き出すことがないことを確認した瞬間であった。