小坂井氏が『社会心理学講義』で言及していた高橋和巳の本を、はじめて手に取った。
紹介されていた代表作ではなく、たまたまオーディブルで見つけた別の一冊だった。
この本もまた、重いテーマを扱っている。
舞台は、満州国の建国に青春を賭けた男の物語。
戦後社会に見捨てられた混血児たちを育てる孤児院の園長が主人公だ。
ある日、彼の活動が新聞社に評価され、表彰されることになる。
だが、その表彰式をきっかけに、彼の精神は内側から静かに崩壊していく。
やがて、施設の女性職員に次々と手を出すなど、"堕落"の道を歩み始める。
奉仕という偽善の殻を被りながらも、彼の中では、失われた時間の痛みが、ずっと心を侵していたのかもしれない。
満州国建国という幻に人生を賭けたり、無垢な混血児たちを救おうと必死に生きたり、その姿に心を打たれる。
だが、そのエネルギーの行き先が、少しずつ狂っていく。
まっすぐ生きようとしていても、こういうことは誰にでも起こり得るのかもしれない。
人間の複雑さを描いている作品だが、
ではこの本から、自分は何を受け取るべきなのか、それが難しい。
だからこそ、もう一度どこかで読み直したい。
そのメッセージを、ちゃんと受け取りたい。
