ロシアのウクライナ侵攻の際に Videonews に出演していたロシア軍事専門家、小泉悠氏。
話しぶりが落ち着いていてわかりやすかった印象があり、その人の本ということで手に取ってみた。

 

本書は「自分の中に情報分析装置をつくること」の重要性を、平易に説いている。
その装置とは、収集したデータや情報から本質を見抜き、構成要素を分解・整理し、

複雑な問題の解決や意思決定に役立つ知識や洞察を導き出す能力のことだ。

 

もちろん、そんな能力が簡単に身につくわけではない。結局は、

①本を読み日々の蓄積に努める

②仮説を持ちながら情報に接する

③文章による継続的なアウトプットで自分を鍛える──その3つに尽きる。

 

そして最後に、人間社会への理解が不可欠だという視点から「文学を読む」ことを勧めている。
やはりそうなんだ、とあらためて確認できたのが、本書を手に取ったことの何よりの収穫だったかもしれない。

 

  • 「情報分析というのは、料理みたいなもの。食材(情報)だけがそろっていても駄目で、調理(分析)するというプロセスがなければ食べられる料理にならない。」
  •  情報(インフォメーション)と情報資料(インテリジェンス)の区別。
    •  集めた食材(情報)を調理(処理)してお客さん(情報受容者)が食べられる料理( 情報資料)に仕立て直す。
  • 「予算の範囲」でやるのか、「身銭を切る」のかで、結果は異なる:
    • 自腹でもいいからあの情報が欲しいと分析者が思い詰めている時というのは、たいていいいところに手が届きかかっている時。
    • 「身銭を切ってでもさらなる情報が欲しくなるまで 分析対象に入れ込む」ことが大事。
  • 定点観測することで、変化が見えてくる。
  • 情報をまとめるには、文章にするのが一番。
    • 継続的なアウトプットで自分を鍛える。
    • 書くという作業が情報分析でもある。
  • 人間への理解を深めるために、「文学を読む」ことが大事。
 
  1. バックグラウンド情報:ある特定のテーマや問題に関する背景や状況に関する情報を指す。文脈を理解し、より深い洞察を得るために必要。そして、本を読み、日々の蓄積を心掛ける。
  2. コア情報:分析の基盤となる重要なデータや情報を指す。意思決定や問題解決のために最も重要な情報であり、分析の目的に応じて変わる。情報の収集と並行して行う。まずは分析対象に関する先行研究(過去の著作や論文)を徹底的に読む。それらを読めてきたら、文献についている参考資料リストの資料を読む。これは一流の専門家たちと同じ舞台に立つということ。
  3. 一次資料生情報):直接収集された未加工のデータや観測結果を指す。コア情報には一次情報も含まれることがある(本書ではコア情報と同じ扱い)。生情報の読み方は、読み手に委ねられている。「生」と呼ぶ理由は、料理になる前の食材の段階に等しいため。読み方(調理法)の鍛え方は、専門家が書いた論文を読むこと。
  4. 体系化する:情報処理装置には情報の効率のいい検索性が必要。
  5. 自分の足で稼ぐ情報:実際に現場に出向き、自分の足で直接情報を収集することを指す。リアルな状況や具体的な事実に基づいた信頼性の高い情報を得るために行う。
  6. 分析の解像度合わせ:情報需要者にとって役に立つ解像度に調整しなければならない。
  7. 情報資料:特定のテーマや問題に関するデータや情報の集合体を指す。情報が記録されているあらゆる形式のものを含む。
  8. インテリジェンス:情報資料を基にして得られる分析結果や洞察、知見を指す。特定の目的に応じた判断や意思決定を支援するための高度な分析や評価が含まれる。
  9. OSINT:Open Source Intelligenceの略。公開されている情報源から収集されるインテリジェンスを指す。合法的に入手可能な情報を使用し特定の目的のために情報を分析、評価するために活用される。
  10. 最強の情報収集術「文章を書く」:情報資料を作るつもりで文章を書く。文章とは、論理構造である。論理構造の中に情報を当てはめていくことで情報同士が関係性が見えてくる。同時に論理構造を繋げるために不足する情報がわかる。つまり、収集すべき情報が見えてくる。情報が集まったら、また文章にする。すると、また不足する情報が見えてくる。これを繰り返す。情報の収集・分析・資料化は、こうしたスパイラル状に進んでいく。
  11. 文章の書き始めで困ったら:手元にある情報を図表やグラフにする。これがスターターとして機能する。図表が勝手にしゃべり出してくれる。
  12. 仮説を立てる:図表がしゃべることを聞いていると仮説が生まれる。これがバックグランド情報やコア情報を収集する上での指針となる。収集した情報を体系化し、出典註付きでメモ書きすると情報資料の部品となる。情報の収集・分析・資料化のスパイラルを進めていくと情報資料ができていく。
  13. 体裁を整える:情報資料本体が読まれることは少ない。情報需要者は大抵忙しいためレポートを熟読する暇がない。それでも情報が届くようにする義務が情報分析者にはある。そのための体裁を整えるポイントには次のようなものがある。冒頭に要約をつける。重要なキーワードには下線を引く。文章の中に見出しをつける(各パートの中身がだいたいわかるようにする)。グラフをつける(文章を読まなくても理解できるようにする)。わかりやすい言葉を使う(分析者の文章は「作品」ではなく「資料」)。ただし、最初に立てた仮説には固執すべきではない。仮説が間違っていそうなら評価を修正しよう。