池澤夏樹は、自分の中で勝手にギリシャつながりで親近感を覚えている作家。
そんな池澤が書いた本書なら、きっと勉強になるに違いないと思って手に取った。

 

本書は、彼が京大で行った連続講義の内容をそのまままとめたもの。
解説書のような形式ではないが、自分一人では到底たどり着けないような解釈や視点を示してくれている。


おかげで、ここで紹介されている本はどれも読んでみたいという気持ちが湧いてくる。

『カラマーゾフの兄弟』は今ちょうど読み始めたところ。
『魔の山』『白鯨』『ハックルベリ・フィンの冒険』『百年の孤独』は積読状態だが、
「読まねばならぬ」という思いが再燃する。


『ユリシーズ』は難解そうだが、いつか挑戦したい。

登場人物への視線がどこか冷ややかで、
作者が全員の心の内を完全に掌握しているように見えるトルストイよりも、
登場人物それぞれが作者と同化せず、独自の主張を持ち、
しかも一人ひとりにあたたかな視線が注がれていると感じられるドストエフスキーを好む、
という彼の率直なコメントが新鮮だった。

 

それにしても、この域に達するまでに、
どれほどの小説を読み、どれほど深く通読を重ねてきたのか――気が遠くなる。
それでも少しでもその境地に近づきたいと思わされた。