スティーヴン・グールドの『The Panda's Thumb(パンダの親指)』に続いて、
本書も面白そうだったので手に取った。
英語で聴いたため理解が不十分な箇所も多かったが、
人間が進化論を誤用し、自らの利益に引き寄せて差別の道具として利用してきた歴史が描かれている。
また、神や宗教的な観念によって科学的理解が歪められてきたことも想像に難くない。
人種という概念にどう向き合うべきかについても深く考えさせられる内容だった。
人間を理解するうえで、グールドの著作は非常に有益だと感じる。
ダーウィンとビーグル号
- ダーウィンはビーグル号の博物学者ではなく、「艦長の個人的な話し相手」として乗船。
- 艦長フィッツロイは孤独による精神的不安から、同年代・同階級の話し相手を必要としていた。
- ダーウィンは毎日食事時に艦長の話し相手を務めた。
- 艦長は神の存在証明に関する話題を振り続け、ダーウィンは反論できずに蓄積された疑問を帰国後に進化論として表現したという仮説が提示されている。
進化論に関する誤解
- 「進化は進歩ではない」が本書の中心的警句。
- 「進化=複雑性の増加」という誤解はスペンサーの影響によるもので、ダーウィンの理論とは異なる。
- ダーウィンは「高等・下等」という価値判断を否定し、進化は環境への適応の結果とした。
進化のイメージ:梯子ではなく灌木
- 進化は一直線の「梯子」ではなく、枝分かれして途切れる「灌木」。
- 原人の化石が現人類と関係ないとされるのは、進化を梯子として誤解しているため。
ヒトの幼形成熟と人種差別
- ヒトは寿命の約30%を成長に費やす長い幼少期を持つ。
- 19世紀には黒人が白人の幼年期で成長が止まった存在とされ、差別が「科学的」に正当化された。
- 後に逆の骨相学的説明が登場し、科学が差別の道具として使われた事例が示されている。
「人種」という概念の危険性
- 欧米では「人種の存在を認めてはいけない」という思想が主流。
- 生物学的分類において「種」は特権的だが、「亜種」は恣意的で曖昧。
- 人種を亜種として扱うことには大きな危険があり、生物学的実態を持つと考えるべきではない。
ダーウィンと「進化」という言葉
- ダーウィン自身は「進化(evolution)」という言葉をほとんど使っていない。
- 彼の理論は「環境との適応の増大」に焦点を当てており、「進歩」や「高等・下等」といった価値判断を否定していた。
- 「進化」という訳語には「下等から高等へ」という誤解を招くニュアンスが含まれている。
進化論と人種差別
- 「進化=進歩」とする考え方は、人間を進化の頂点に置く偏見に繋がる。
- この偏見が発展すると、「猿に近い劣等人種」「高度に進化した高等人種」といった誤った理解が生まれる。
- 地域による多様性は「地理的変異性」であり、「人種」ではない。
- こうした誤った科学的根拠による差別は、近年まで広く受け入れられていた。
- 著者はこの問題を繰り返し取り上げ、著作『人間の測りまちがい』に集約している。
その他のトピック
- カンブリア大爆発、大陸移動説、大量絶滅など、興味深いテーマが多数紹介されている。
- 『ワンダフル・ライフ』を読む予定があるなら、カンブリア爆発の章は特に関連性が高い。
ヒトの発達遅滞とネオテニー
- ヒトは「早く産まれすぎている」種であり、妊娠期間が成長ペースに比して短すぎる。
- 出生時の脳は最終サイズの約1/4で、産道を通るために早期出産が必要。
- ヒトの赤ん坊は「胎児として産まれてくる」とも言える。
- 生後1年間は霊長類の胎児と同じ発育パターンを示す。
- 幼児期が長く、成人後も祖先の幼期の形質を保持している(ネオテニー)。
- この発達遅滞が、ヒトを「学習する生物」にした。
- ヒトは学習を強化するために性成熟を遅らせ、幼児期を引き延ばした。
