スピノザ、そして医師が人の幸せについて語るというテーマに興味を惹かれ、
さらに2024年本屋大賞ノミネート作であることを知り、この本を手に取った。
同じ医師を描いた作品でも、平行して読んでいる『白い巨塔』とは打って変わって、
権力・政治闘争、出世欲、金銭欲、名誉欲にまみれた世界はかけ離れた世界が描かれている。
「人間は無力な生き物で、大きな世界の流れを変えることはできない。けれど、"だからこそ"努力が必要だ」と、
本書の主人公・哲郎はスピノザの思想を紹介する。
さらに、最期をどう迎えるべきかという、人間の根源的な問いが投げかけられている。
命や人生、病気と向き合う中で、苦しみながらも勇気、誇り、優しさ、そして希望を持ち続けようとする姿は、実に尊い。
苦しいときこそ人間の本性が現れると言うが、
そのような状況で暗闇で凍える隣人に外套をかけてあげられるような行動こそ、
命や人生を超える価値を持つのではないかと感じた。
- 「人間はとても無力な生き物で、大きなこの世界の流れは最初から決まっていて、人間の意思では何も変えられないと言った思想家もいたんだ。こんな希望のない宿命論みたいなものを提示しながら、スピノザの面白いところは、人間の努力というものを肯定した点にある。すべてが決まっているのなら努力なんて意味がないはずなのに、彼は言うんだ。”だからこそ”努力が必要だと。私は、希望に溢れた論理展開だと感じるんだよ。何でもできるって万能感を抱えながら、無限に走らされる方がずっと過酷さ。」
- 「人は無力な存在だから、互いに手を取り合わないと、たちまち無慈悲な世界に飲み込まれてしまう。手を取り合っても、世界を変えられるわけではないけれど、少しだけ景色は変わる。真っ暗な闇の中につかの間、小さな明かりがともるんだ。その明かりは、きっと同じように暗闇で震えている誰かを勇気づけてくれる。そんな風にして生み出されたささやかな勇気と安心のことを、人は「幸せ」と呼ぶんじゃないだろうか。私たちにできることは暗闇で凍える隣人に、外套をかけてあげることなんだよ。」
