加賀乙彦氏の書籍を読んだのは本書が二作目。
最初に手に取った『悪魔のささやき』は小説ではなく、
犯罪心理に関する新書であった。
レビューにも書いた通り、なかなか面白かった。
一方で、同氏は精神科医から小説家に転身された方であり、
やはり小説を読まねばならないと思い、同氏の代表作と思われる本作を読むことにした。
巻末の著者自身のあとがきでは、
主人公である日本人留学生コバヤシは必ずしも加賀氏本人ではないとの言及があるものの、
『悪魔のささやき』に記載されていた本人の経歴を踏まえると、
限りなくコバヤシは加賀氏本人ではないかと思われる。
1967年に発表された作品であり、舞台もフランス北部のフランドル地方であることから、
当時は日本人をはじめ有色人種もまだあまりいなかったはずだ。
そんななか、精神病院というある種閉じられた空間で日本人として生きていたコバヤシ(加賀氏)には敬服してしまうし、
若いフランス人看護師と同棲までしていたとあって、
東洋人が白人女性と付き合うことの難しさを身をもって体感した自分としては、コバヤシがとても立派に思えた。
本作では、異国で生活し現地の人々と交流していくことの難しさや、 愛や孤独との向き合い方が描かれている。
それはコバヤシ視点にとどまらず、周囲の登場人物たちの視点からも描写される。
そこからは答えのない問いだけが残り、
人々は生きることの難しさから逃れることはできないという現実を突き付けられている気がした。
それがなんともリアルで、読んだ甲斐のある小説であった。
