悪夢のような労働改造所から、中国人の養父や友人たちの尽力によって陸一心が釈放されるところから第二巻は始まる。
その後、恩人である江月梅と結婚し、製鉄所勤務への復帰も果たす。

 

日中関係の改善もあって、これまで足かせにしかならなかった「日本人であること」や「日本語を理解できること」が、
むしろプラスに働く局面も現れるなど、第一巻とは打って変わって良い風が吹き始める。
しかも、生き別れた実父と中国の地で再会するという、奇跡のような出来事まで起こる。

 

良い風が吹くまで、よくぞここまであきらめずに生き抜いてきたと思うが、
これを耐えたからこその「良い風」と言えるのかどうか。
「良いときもあれば悪いときもある」と簡単に片づけられることなのか、正直よくわからない。
生き抜いたとしても、この流れが変わらなかったという別のシナリオも十分に考えられるからだ。

 

印象的な場面としては、宝華製鉄(宝鋼)の製鉄所建設をめぐり、中国政府との交渉に臨む東洋製鉄(日鉄)。
最近もUS Steelの買収で米国政府(しかも最後はトランプ)と真っ向勝負した日鉄だが、
この時もまた壮大でしびれるような交渉に挑んでいたのだ。
そうしたメンタリティを日鉄はこの時代から培ってきたのだろうし、
それが企業のDNAとして受け継がれているように感じる。
そして、それが今回のUS Steel買収にもつながっているのかと思うと感慨深い。

 

実父と偶然出会ったり(しかもお互い父子であることに気づかず)、
元恋人の丹青とプロジェクトで再会したりと、あまりに偶然が多すぎるのはご愛敬かもしれない。


それでも、多くの出来事が史実に基づいている中で、
日中双方で、これほどまでに力強く、自分のためだけでなく国家のためにも生き抜こうとしていた人々の姿を本書を通じて記録していること。
そのこと自体が、我々人間にとって大切な意味を本書は持っているように思える。