読みやすく、また面白かった。
山口周氏の最後の解説には、コンサル特有の少し鼻につく感じもあったが、
それでも参考になる、わかりやすい内容だった。
人類未踏の地を目指して、命をかけた(実際にスコット隊の最終メンバーは全滅)ドラマがあったとは。
用意周到な準備、しっかり考えて臨む姿勢、根性に頼りすぎないこと。
状況に応じて権力の在り方を見直すこと。
そして、「頑張る人は夢中になる人に勝てない」ということ。
これらはそれなりに理解していたつもりだったが、本書を通じて改めて確認できた。
そして、自分は何に夢中になれているのか。
また自問自答することになり、
その答えが出せているようで、出せていないような自分が、なんとも歯がゆい。
- アムンセンとスコットのリーダーシップの違いがもっとも顕著に現れているのが、彼らのチームにおける「権力の格差」である。「権力の格差」とは、リーダーとメンバーとのあいだにおける権力の差を指す概念であり、もともとはオランダの組織心理学者ヘールト・ホフステードが提唱したもの。ホフステードはIBMからの依頼に基づき、全世界のIBMオフィスにおける上司と部下の権力の格差を調査し、それを「権力格差指標=Power Distance Index」として数値化した。
- ホフステードによれば、権力格差の大きいチームでは、リーダーの命令が絶対であり、メンバーがリーダーの指示に反論することなどあり得ないという空気が支配する。一方、権力格差の小さいチームでは、組織はよりフラットになり、リーダーとメンバーが相互に意見をぶつけ合いながら集合的に意思決定を行うことが歓迎される。ホフステードのスコアリングによると、アムンセンの出身国であるノルウェーは権力格差の非常に小さい国であり、それは本書に登場するさまざまなエピソードからも感じ取れる。
- アムンセンは幼少期から探検家を志し、極地探検に関する膨大なスキルや知識を習得していた「プロの探検家」である。しかし、そのアムンセンは、ことあるごとに隊員たちに意見や提案を求めていた。これはライバルであるスコットと非常に対照的な点である。
- 一方のスコットは、チーム運営に厳格な海軍の階級制度を取り入れていた。考えるのは隊長であるスコットであり、メンバーは忠実にスコットの命令に従うことを求められていた。その結果、自主性も参画意識も持てないメンバーはモチベーションを低下させ、ケアレスミスを連発することとなった。スコット隊の隊員はあらゆる状況で小さなケアレスミスを積み重ね、最終的にはそれらのミスが全滅に至る決定的な状況を招いた。
- 隊員が死亡していく順番にそれがよく現れている。記録を見返すと、隊員が死んでいった順はエバンス、オーツ、バワーズ、ウィルソン、そしてスコットであり、つまりは階級の低い者から順に死んでいる。隊長がその責任感から最後まで頑張ったという能天気な見方もあるかもしれないが、筆者は、スコット隊の厳格な階級制度が階級の低いメンバーに心理的・肉体的なストレスを与え、死を早めたと考える。
- 権力格差の大きいチームでは、地位の低いメンバーが発言を封じられることで、彼らの発見、懸念、アイデアが共有されず、結果的に意思決定の品質が悪化する。このような状況は、想定外のことが次々に起き、リーダーの認知能力・知識・経験が限界に晒されるような環境下では致命的である。
- 一方で、アニシックの研究によれば、想定外のことが起きないような安定的な状況においては、権力格差の大きさがむしろチームのパフォーマンスを高めることが明らかになっている。そのような状況では、リーダーの意思決定が上意下達され、一糸乱れず実施される組織の方がパフォーマンスが高い。つまり、リーダーの認知能力や知識・経験の範囲内で対処が可能な状況においては、権力格差の大きさがチームのパフォーマンスにプラスの影響を与えるということになる。
- アムンセンとスコットの対比に関して言えば、アムンセンによる権力格差の小さいリーダーシップは、南極点到達という極めて不確実性の高い営みにおいて有効に機能した。一方のスコットによる権力格差の大きいリーダーシップは、有効に機能しなかった。しかし、だからといって「どのような状況においても権力格差の小さいリーダーシップが有効である」と断ずるのは暴論に過ぎない。
- この示唆を現在を生きる私たちに当てはめるとどうなるか。当時の南極は前人未到の大地であり、そこがどのような場所であるかはよくわかっていなかった。それはまさに、現在の我々にとっての「これからやってくるアフターコロナの世界」のようなもの。不確実性・不透明性の高い環境において有効なリーダーシップとは何かを考える題材を本書は提供している。
- 内発的動機とは、「好奇心や衝動等、内側から湧き出る感情によって喚起された動機」のこと。一方、対置概念である外発的動機とは、「評価や賞罰等、外側から与えられた刺激によって喚起された動機」である。本書の文脈において、内発的動機の持ち主がアムンセンであり、外発的動機の持ち主がスコットである。別の言葉で表現すれば、アムンセンは「夢中になる人」、スコットは「一生懸命頑張る人」。そして、これまでになされた数多くの動機に関する研究は、「頑張る人は夢中になる人に勝てない」ことを示している。本書は、この命題を詳細に説明する事例として非常に優れている。
- しかし、なぜ「頑張る人は夢中な人に勝てない」のか? 本書を読めばその答えはよくわかるが、一言で言えば「夢中な人」と「頑張る人」とでは「累積の思考量が全く違う」。
