興味深いテーマ設定で、思わず手に取った本書。

 

死者を「悼む」ために旅に出る主人公・静人。

彼を中心に、死を通して浮かび上がる人々の背景や事情が描かれていく。

一見、悪人と思われるような人物も、表面的な行動だけで評価してしまえば、その本質を見誤る。

 

表に現れた行為の裏には、さまざまな事情があり、完全な悪人も、純粋な悪行も存在しない。

だからこそ、その行為に至るまでの経緯や背景に目を向ける必要がある。

こうしたテーマは比較的よく見られるもので、物語の流れとしても定番ではある。

 

しかし、「死」に対して、悼むという行為を通じて真正面から向き合おうとする姿勢には新鮮さがあった。

悪行に対して感情的になってしまえば、本質を見誤るだけでなく、自分自身を見失うことにもなりかねない。

そんなことで、人生の貴重なエネルギーや時間を費やすべきではない。

 

自分や周囲の人々が、どのように愛や感謝に触れてきたか、

どんな存在として認識されていたかを意識することで、

死ぬまで、そして死んだあとも、幸せに近づけるのではないかと、改めて本書から気づかされた。