名著なのだろうという知識しかないまま、本書を手に取った。
扱われているテーマから、多くの反響を呼んだ作品なのだろうと思う。
夏目漱石も絶賛したとあり、間違いなく名著なのだろう。
差別は、世界のどこでも生じる現象であり、人間の負の側面でもある。
外見に違いがないはずなのに、だからこそ、わずかな素性の違いを見出し、そこから差別が生まれる。
「社会心理学講義」で小坂井氏も述べていたが、
フランスで反ユダヤ主義が表面化した際、東欧系で見た目も言葉も明らかに異なるユダヤ人より、
フランス社会に同化した隠れユダヤ人が標的にされたという。
そして、日本における在日朝鮮人に対する差別もこれに類似するとされる。
その構造は共通しているのかもしれない。
人間社会で生きる以上、差別は避けられないのかもしれない。
本書は、その現実の中で、私たちがとってしまう行動様式を言語化している。
世の中は不平等であり、誰もが同じ幸せを得られるわけではない。
努力も成功や幸福を保証しない。
しかし、丑松の生きざまは美しく、
彼に「がんばってほしい」と思うこと自体に、意味があるのではないかと思うし、そう思いたい。
