● 酒と親友、小さな巨人
俺のダチにトミーってやつがいて、そいつは酔っ払うと態度がでかくなる。
それだけだと、どこにでも居るただのメンドクセー野郎だが、トミーの面白いところは態度だけじゃなくて体もでかくなる所だ。
つまり、こういうことだ。普段のトミーは身長140センチしかないちっさな男で、誰にもで優しいいい男だ。
ところが、酒を飲むと次第に体がでかくなる。
一緒にバーに入ってまず1パイントビールを空けると身長が160センチ、二杯飲めば180センチで三杯目には2メートルピッタリになっている。そっから先はどんなに酒を飲んでも、トミーは全然大きくならない。
そして、一晩立って完璧に酒が抜けると元通りになる。
だから、トミーと俺がいつものバーで飲むときに、トミーは最初ブカブカのスウェットを着てるんだが、一時間もすると2メートルの大男になってスウェットをパツパツにしながら酒を飲んでることになる。
2メートルになった後のトミーも普段どおりいいやつだけど、口調が荒っぽくなるし全体的にマッチョな性格になる。
バーで飲んでて、チンピラに絡まれたときはトミーがそいつの首根っこ捕まえて、店の外に放り出したこともある。
小さいときはちょっと気が弱くて、おとなしいヤツだが2杯目くらいから(180センチ)だんだん気が強いマッチョなトミーに変身だ。
ただ、根は真面目だから自分から喧嘩を売ることもしないし、ユーモアもあるからバーの常連からも愛されてるヤツだった。
そんな伸縮自在のトミーと、いつものバー「ランバージャック」で飲んでると、ここら辺じゃあみかけないようないい女と、それに付きまとってるらしいチンピラが揉めながら入ってきた。
もう、その時のトミーの顔は一発で一目惚れですって感じだったし、その後のあいつはまるで映画の俳優みたいだった
チンピラの腕をつかんで「さっさと消えうせな、このトンマ野郎」と来たもんだ、あんまりにもびっくりして感心していいんだか、笑っていいんだかわからねえような状況だった。
そんでまた、その別嬪も2メートルあるトミーを見上げて「あんた、強く て優しいんだね」ってぞっこんだ。
こうして二人はあっという間に付き合うことになった。
そうしてから2ヶ月くらいして、バーで会ったトミーは意気消沈してた。
我らが親友、愛すべき小さな巨人トミーは、あの女に振られたらしい。
「チャールズ、俺はもうやってらんねえよ」
話を聞いてみると、経緯はこうだ。
あの別嬪とトミーは2ヶ月付き合ったそうだが、トミーはいつもデートの時は酒を飲んで、でかくなってから行くか、バーでデートかのどっちかだ。
別嬪のほうも、なんだかこりゃあ様子が変だってことで、トミーに問い詰めた。そんでそのときは誤魔化したらしいが、申し訳なくなって次のデートのときは素面で行ったら、すっかり振られちまったらしい。
今まであたしを騙してたとか、うそつきだとか、ちびだとか言われて、心底しょげちまった2メートルのトミーが、泣きながら今俺と酒を飲んでるってワケだ。
酒を飲めば飲むほど泣き出すトミーはしまいには死にたいだとか、戯言を言い出す始末だ。
そんな傷心しながら最後にはぶっつぶれたトミーをタクシーに乗せて、俺は家までの帰り道を歩いてたら、向こうから男と腕を組んであの別嬪が歩いてくるじゃねえか。
身長190センチはあるデカイ男と嬉しそうに歩いてる別嬪を見て、こいつはデカイ男が好きなあばずれだと俺は思った。
俺がどうも女を信用できねーと思うのは、態度がころころ変わるからだ。付き合い始めたときはおとなしくしてるが、だんだん長くなってくると細かいことや、詰まらないことを言い始めて最後は怒りながら泣き喚きやがる。
我が親友、小さな巨人トミーよ。お前が惚れた女はあばずれだ。だから、もう泣くのはやめろよ。そんなことを思いながら、俺はブラブラと帰った。
週末、いつものバーで飲んでるとデカイ男とすげえ美人が二人で入ってきた。女は男に何か言うと、俺の座っているカウンターのほうにハイヒールの音をコツコツさせながら歩いてきた。
元気?とゴージャスな微笑を浮かべて女は俺に声をかける。さすがの俺もドギマギしながら「うん」だとか「あー」だとか言ってると、女は「俺だ、トミーだよ」と抜かしやがった。
つまり、こういうことだ。あんまりにも傷心したトミーはある日、酒と一緒に睡眠薬を飲む。すると眠気がやってくるどころから、胸もケツも膨らんでプリッとした体になるわ。髭は消えるし髪は長くなるわで性別が変わっちまったらしい。
前からおかしな体質だとは思ってたが、俺にはわけがわからねえ話だった。呆然としてるとトミーは話を手短に話してくれた。
昼間、小さい体で街を歩いてると、あのあばずれとデカイ男がデートしてる姿を見ちまったらしい。向こうもそれに気がついて、あばずれは心底見下してあざ笑ったらしい。
そんで、復讐に燃える鬼になったトミーは一計。折角絶世の美女になったんだからって、なんと後でデカイ男に言い寄って、あばずれから彼氏を奪い取ってやったらしい。
言われてみりゃあ、今テーブル席に座ってるトミーの連れてきた男は、俺が前にあばずれと一緒に歩いているところを見かけたデカイ男だった。
トミーはカウンター席から立ち上がると、「またな」と言って俺のところから去っていった。デカイ男はトミーが実は男だってことを知らないらしい。しばらくしたら、適当に理由を付けて別れるそうだ。
俺はなんだか、色々考えようと思ったがどうも頭が混乱してダメだっ
た。仕方がないからバーテンを呼んで、ビールをもう一杯頼んだ。
チャールズ、さっきの美人は誰なんだい?ってバーテンが聞くから「トミーだよ」って答えたら、バーテンはポカンとした顔をしてこっちを見返した。
俺はそれがなんだかおかしくて、もう全部どうでも良くなって一人でゲラゲラ気が済むまで笑った。

