相撲の決まり手の一つに、首投げという技があります。首投げは、相手の首を自分の腕で巻いてぶん投げるという大技です。滅多に見ることが出来ませんが、相手に懐深く入られて防戦一方となった力士が半ば捨て身の体勢で繰り出す場合が多く、決まれば不利な体勢からの鮮やかな大逆転となるだけに見ている人にもとても印象に残る決まり手の一つです。
前置きが長くなりましたが、そんなスゴい大技が、かつて横綱同士の対戦でとびだしたことがありました。1983年九州場所の14日目結びの一番、北の湖‐隆の里戦です。
隆の里は横綱二場所目、前の場所は新横綱で全勝優勝という空前絶後の離れ業をやってのけ、この場所も13日目まで12勝1敗と絶好調、片や北の湖も全盛期の勢いこそなくなっていましたがケガから復調して11勝2敗とこちらも好調、そんな充実した横綱同士の対戦となりました。
両者五分の立ち合いから激しい差し手争いとなり、前さばきのよさに勝る北の湖がもろ差しとなると、怒涛の寄りで一気に勝負に出ました。勝負ありと誰もが思った次の瞬間、隆の里が北の湖の首を抱え込んで捨て身の首投げを放つと、北の湖の巨体はものの見事に回転して仰向けに土俵に叩きつけられてしまいました。まさしく大逆転の捨て身の首投げ、相撲史に名を刻む天下の大横綱もよもや首投げを食らうとは思いもしなかったと思いますが、それ以上に絶体絶命の不利な体勢から170キロの北の湖の巨体を左腕一本でぶん投げた隆の里の底知れないパワーと勝負勘が光った一番でした。
この一番は、直接優勝を決した一番ではないのであまり相撲史に語られることもないような気がしますが、全盛期は憎らしいほど強いと恐れられた完全無欠の大横綱北の湖を、これまたポパイの異名をもつ隆の里が自慢の怪力で、しかももろ差しになられながら首投げでなぎ倒すというスゴい一番は、相撲の醍醐味をみせつけるに十分過ぎる名勝負です。
隆の里はこの一番に勝って1敗を守り、翌千秋楽結びの一番で、千代の富士との三場所連続の相星決戦に臨みますが、この時は千代の富士が三度目の正直で雪辱を果たしています。ちなみに隆の里と千代の富士の千秋楽結びの一番での相星決戦は翌年の初場所まで4場所に渡って繰り広げられ、隆の里が3勝1敗と千代の富士を圧倒、この時代は千代の富士にとっても隆の里が最大の難敵として君臨していました。
来場所からはいよいよ東西に横綱が並び立ち、5年ぶりの横綱対決も実現します。かつてはこんな死闘を繰り広げていた横綱対決、白鵬、日馬富士の両横綱にも、秋場所に続く大熱戦を大いに期待したいと思います。