免疫抑制下の社会に登場した史上最強レベルの耐性菌

 

いかなる抗生物質のたぐいも効かない「強力な耐性菌」というのが、世に出てきてからは、わりと時間が経ちました。

 

最初に記事にしたのは、今から 10年近くも前のこちらの記事でしょうか。コリスチンという最終救世薬といわれていた抗生物質までが無効の耐性菌が出てきたときの話です。

 

抗生物質というのは、「有効に使えば」この世にある薬の中でも、最もまともな薬効を持っているものではあるのですけれど、医療現場で濫用が始まってからは、むしろバクテリアを凶悪にしていく役割の側面が強くなってきています。

 

2019年には、カンジダ・アウリスという致死率の極めて高い真菌が、

 

「地球全体で同時多発的に現れた」

 

というようなこともあり、医療現場が混乱している状況を記事にしたこともありました。

 

(記事)感染した人の半分が「打つ手がないまま死亡する」史上最強の耐性真菌カンジダ・アウリスが世界中に拡大。しかも、この真菌は地球で同時多発的に「突如」現れた奇妙な存在
In Deep 2019年4月7日

 

このカンジダ・アウリスというのは、「発生地が特定できない」という世界同時多発的に発生した耐性菌でしたが、「感染した人の約半数が 90日以内に死亡する」という強力な真菌でもありました。

 

そして最近、WHO が「非常に強い毒性を持つ新しい細菌が登場した」ことについて警告を出していました。

 

今回は、そのことを報じていたライブサイエンスの記事をご紹介しようと思いますが、その新しい耐性菌は、16カ国から報告され、そのうち、12カ国から強毒性のある株が報告されたとあるのですが、ライブサイエンスでは、それぞれの国の具体的なところにはふれていません。

 

それで、記事の前に書いておきますと、以下の国から超毒性の新しい菌が報告されたようです。

 

ちなみに、この新しい耐性菌の強毒性のある株の名称は、

 

「 ST23 」

 

です。

 

23と入っているのがちょっと気に入ったところもあるのかもしれないですが、ST23が報告されたのは以下の国です。

 

新たな強毒性の耐性菌 ST23 が報告された国

 

・アルジェリア
・アルゼンチン
・オーストラリア
・カナダ
・インド
・イラン
日本
・オマーン
・フィリピン
・スイス
・タイ
・英国

 

WHO

 

国の位置や距離もバラバラで、人流もどれほどあるのかわからないような国同士で、同時に出てきています。こういうものが、なぜ世界で同時多発的に出てくるのかという理由はともかく、おおむね、それがどんなものであっても、「免疫的に健康な人は大丈夫」なものなのだと理解しています。

 

先ほど出てきました 2019年の致死的な真菌カンジダ・アウリスにしても、感染が広がったのは、主に病院の入院患者の間ででした。

 

一概にはいえないにしても、入院している方々の中には、病気そのものや、あるいは治療やその薬剤のために何らかの免疫が落ちている方々も多いともいえるわけで、致死的な真菌が病院の患者を中心として広がったことは理解できる感じではありました。

 

 

しかし。

 

 

今はどんな世か? ということです。

 

入院していない人でも、あるいは、病気になっていない人でも、「免疫の問題を(潜在的に身体内部に)抱えている人たちの割合」がどのくらいいるのか

 

大人も子どもも含めて、パンデミック以前より、はるかにさまざまな感染症や病気が蔓延している社会になっていますが、まあ、その原因は何か? なんて野暮なことはここでは書きません。ある程度わかりきっていることだからです。

 

しかし、原因はともかく、

 

「免疫の力が落ちている人たちが多数いるかもしれない中に、超強毒性の耐性菌の感染の流行などが起きたらどうなるのか?」

 

ということは思います。

 

抗生物質はまったく効かないのですから。

 

それは、「治療法がない」ことを意味します。

 

今の社会は、人々の免疫の観点からは、10年前とは何もかも違います。本来的な意味での「健康な人」というのが、あまりいなくなってしまった社会です

 

そういう社会で、今回のものだけではなく、対抗処置のない新たな細菌やウイルスが爆発的に流行したらどうなるのかなということは思います。

 

これからの免疫抑制下の世界では、数年単位でこういう事態に襲われ続けるのだと思います。

 

ここからライブサイエンスの記事です。

 

 


【米国および他15カ国で「超毒性」のスーパーバグの危険な株が検出】

Dangerous strains of 'hypervirulent' superbug detected in US and 15 other countries
livescience.com 2024/08/03

 

重篤な感染症を引き起こす薬剤耐性菌が世界的に蔓延しており、現在少なくとも16カ国に広がっているとWHOが警告している。

 

 

世界保健機関(WHO)は新たな報告書の中で、米国を含む16カ国で「超毒性」のスーパーバグの危険な新種が発見されたと発表した。

 

超毒性肺炎桿菌(hvKp)として知られるこのスーパーバグは、薬剤耐性菌の一種で、健康な免疫系を持つ人でも急速に進行する致命的な感染症を引き起こす可能性がある。

 

一般的に、肺炎桿菌は土壌や水中などの環境中だけでなく、人間を含むさまざまな動物の喉上部や消化管にも存在している。

 

この細菌の典型的な型は、医療現場では大きな問題であり、医療機器を汚染したり、特に免疫力が弱い人に日和見感染を引き起こしたりする可能性がある。肺炎、尿路感染症、血流感染症、神経系感染症である髄膜炎を引き起こすことが知られている。

 

当初、この細菌は抗生物質アンピシリンに対して本質的に耐性を持っていたが、近年ではさらに多くの薬剤に対して耐性を獲得するようになった。

 

新型の「超毒性」の K.ニューモニエ菌株(K. pneumoniae)は、健康な免疫系を持つ人でも重篤な感染症を引き起こす可能性があるため、より広範囲にわたる脅威となっている。

 

ミネソタ大学が発行する CIDRAP ニュースによると、侵襲性感染症は急速に進行し、合併症や死亡率が高くなる可能性があるという。

 

これらの hvKp 株は 1980年代にアジアで最初に発見されたとき、さまざまな抗生物質に対してまだ脆弱だった。しかし現在、これらの株は世界中に広がり、古いクラスの抗生物質と新しいクラスの抗生物質の両方に耐性を示していることが研究で示唆されている。

 

特に、これらの株の一部が、他の複数の薬剤に耐性のある細菌感染症の治療によく使用される抗生物質のクラスであるカルバペネムに耐性を示していることが懸念される。

 

「カルバペネム耐性と、特定の K.ニューモニエ菌株が示す強毒性を組み合わせると、この細菌による罹患率と死亡率が上昇します」と、ジョンズ・ホプキンス大学健康安全保障センターの上級研究員アメシュ・アダルジャ博士は CIDRAP ニュースに語った。

 

WHO の報告書は、同機関が加盟国に肺炎桿菌の世界的蔓延状況に関する情報を要請した結果だ。要請により 43の国と地域からデータが集まり、そのうち 16の国と地域で hvKp 株が検出されたと報告された。

 

報告された国のうち 12カ国は、カルバペネム系抗生物質や入手可能なすべてのベータラクタム系抗生物質に耐性を持つ遺伝子を持つ ST23と名付けられた特に懸念される菌株を発見したと WHO は 7月31日の声明で述べた。

 

米国は、hvKp 細菌全般を検出したと報告した国の一つだが、ST23 細菌については具体的には検出していない。

 

WHO は声明で、現在これらの細菌の監視が限られているため、世界的に「 HVKP 関連感染症の蔓延は過小評価されている可能性がある」と述べた。

 

WHO は、これらの感染症に関する認識を高め、検査を拡大する必要があると指摘した。これは、人口全体におけるスーパーバグの追跡と個々の患者の治療にとって重要だという。なぜなら、細菌を正しく特定することは、正しい治療方針を選択する上で重要だからである、と同機関は述べた。

 

「強毒性と抗生物質耐性が同時に発生しているため、地域社会と病院の両方のレベルでこれらの菌株が広がるリスクが高まることが予想される」と WHO は結論付けた。

 

 

 

 

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