北朝鮮によるミサイル発射や核実験の兆候を受けて緊張が高まっていますが、中でも米国が懸念しているのが北朝鮮によるICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発です。実際に北朝鮮はKN-08/14といったTEL(移動式発射台)搭載型ICBMをパレードで展示したり、さらにICBM向けの新型エンジンの燃焼試験や小型核弾頭の開発を進めています。この切迫した脅威に対して、米国はいかに対応するのでしょうか。
米本土を護るGMD
米本土に飛来する弾道ミサイルを直接撃ち落とすのが、「GMD」と呼ばれるものです。GMDは「地上配備型ミッドコース防衛」のことで、弾道ミサイルが宇宙空間を飛翔しているミッドコース段階において撃ち落とすものです。GMDはGBI(地上配備型迎撃体)と GFC(GMD 射撃管制システム)から構成されており、宇宙空間からミサイル発射の際に放出される熱を感知する早期警戒衛星や、米本土や海上に配備された早期警戒レーダーからもたらされた弾道ミサイルのリアルタイム追跡データをGFCが受信し、そのデータをもとに GBI を発射して目標へと誘導して迎撃する仕組みです。
弾道ミサイルを迎撃する GBI は固体推進剤を用いた三段式の迎撃ミサイルで、地下のサイロに格納されています。全長が約17mもあるその見た目はまるでロケットのようですが、他の弾道ミサイルよりもはるか高高度を飛翔する ICBM を迎撃するために高度1000km以上まで上昇するため、あながち見た目の感想と実態は近いのかもしれません。そんな GBI は弾頭部に EKV(大気圏外キルヴィークル)という弾道ミサイルに体当たりして破壊する迎撃体を搭載しています。EKV は目標の弾道ミサイルに近づくと弾頭から放出され、搭載する赤外線センサーにより目標を補足して直撃破壊(ヒット・トゥ・キル)する仕組みです。
また EKV には前期型と後期型が存在し、前期型であるEKV CE1(EKV 能力強化1型)は2004年から配備が開始されましたが、迎撃試験の結果が芳しくありませんでした。そこで登場したのが後期型の EKV CE2(EKV 能力強化2型)で、搭載する赤外線センサーやデータ処理装置の能力を向上させることによりCE1に比べてさらに正確な迎撃を目指していて、2014年6月に行われた迎撃試験を成功させています。
GBI は現在アラスカ州フォートグリーリーに26発、カリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地に4発の計30発が配備されていますが、2017会計年度に配備数を44発まで増加させることになっています。
(2009年、アラスカ州フォートグリーリーに配備されているGBIを見つめる元国防長官のロバート・ゲーツ氏。サイロに収納されているのが分かる。 画像はMissile Defense Agency https://www.mda.mil/global/images/system/gmd/060109_Gates_and_GBI2.jpg より)新型KVの開発
米本土を弾道ミサイル攻撃から防護するための重要な手段であるGBIですが、現在そのGBI に搭載するための新型 KV(キルヴィークル)の開発が進んでいます。一つ目はRKV(再設計キルヴィークル あるいはCE3)と呼ばれるもので、これは従来のEKVよりも低コスト化を図りつつ信頼性・メンテナンス性・生産性を向上させることを目的に開発されているものです。これらの目的を達成するために、RKV は従来のEKV開発で蓄積された技術や部品を組み込めるようモジュラー化されていて、より正確な目標識別能力も付与される予定です。また早期警戒センサーなどからの目標情報を受け取るために、事態に即した最適な情報を受け取れるオンデマンド通信(様々な情報から特定のものを選択するもの)も組み込まれるといいます。RKVは2018年に最初の発射試験、2019年に最初の迎撃試験がそれぞれ予定されていて、配備は2020年に予定されています。
二つ目は MOKV(多目標キルヴィークル)と呼ばれるもので、これは従来の EKV とは一線を画すものです。これまでのEKVは一発の GBI につき一基が弾頭に搭載されていましたが、これでは多数の弾道ミサイルが飛来した際に米国も多数のGBIを発射せねばならず、また一発の弾道ミサイルに複数の弾頭を搭載する MIRV(複数個別誘導再突入体)方式や、囮弾頭を備えた弾道ミサイルの攻撃に対処するのは困難です。そこで一発のGBIつき複数の小型KVを搭載して、複数の弾頭や囮弾頭をまとめて迎撃しようというのがMOKVです。MOKVは個々に目標識別センサー・推進装置・通信装置を搭載していて、それぞれが自立して目標に向かう仕組みです。最近の動向では2015年8月に、MDA はロッキードマーチン・レイセオン・ボーイングの三社とMOKVの設計に関する契約を結び、開発に向けた重要な一歩を踏み出しています。計画ではMOKVは2030年代に登場予定です。
このように、米本土を護る態勢を米国は強化しようとしています。トランプ政権になり、BMD態勢の強化を同政権が宣言している今、さらなる態勢強化の可能性が高まっていると言えるでしょう。
参考記事
・「Multi-Object Kill Vehicle (MOKV) Begins to Take Shape」http://defense-update.com/20151122_ekv-mokv.html (2017年4月6日 24時00分最終閲覧)
・Missile Defense Agency「Ground-based Midcourse Defense (GMD)」https://www.mda.mil/system/gmd.html (同上)
・「Senators Concerned With Shrinking Missile Defense Research Budget」http://www.defensenews.com/story/defense/policy-budget/2016/04/14/senators-concerned-shrinking-missile-defense-research-budget/83046806/ (同上)
・「GAO: MDA’s Homeland Missile Defense Improvement Strategy Risky」http://www.defensenews.com/story/defense-news/2016/02/18/gao-mdas-homeland-missile-defense-improvement-strategy-risky/80568582/ (同上)