ロシアに対抗 国防力を強化するポーランドとその内容 | 因幡のブログ

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 ロシアによるクリミア侵攻以来、欧州各国はロシアの存在に戦々恐々としています。そんな国の一つであるポーランドは、最近大規模な国防力の強化に乗り出しました。昨年末にポーランド国防省は、2017〜2022年までに新たな兵器を購入するための予算として145億ドルを計上する計画を発表しました。今回はそれも含めて、陸・海・空・ミサイル防衛の分野でどのような動きがあったのか、見ていきたいと思います。
 

陸:レオパルド2を増強/強化
 ポーランド国防省はつい先日、外国から中古のレオパルド2戦車を購入する計画を明らかにしました。ポーランドは現在ドイツ連邦軍から中古として購入したレオパルド2 A4/A5型を合わせて約250両あまり保有していますが、今回具体的にどの国から何両を購入するかは不明です。
 また現在128両のレオパルド2 A4については、ポーランドの国内企業PGZの傘下企業とドイツのラインメタル社が連携してレオパルド2PLと呼ばれるクラスへのアップグレードを実施中で、これは車長や砲手などへの新たな視認装置の付加や防護能力の向上、射撃時の反動低減化やAPU(補助動力装置)の付加などを行うもので、戦闘能力の大幅な向上が見込まれています。


海:フリゲート・潜水艦・
対艦ミサイルを整備
 海軍近代化のために、ポーランドはオーストラリアからアデレード級フリゲートを購入することとしました。アデレード級はオーストラリア海軍の主力艦艇でしたが、後継となるホバート級が就役を開始したために順次退役することになっていて、その貰い手としてポーランドが手を挙げた形です。今回ポーランドが購入するのは数年前に「SEA1390」という近代化改修を受けた艦で、これにより対空レーダーやソナーやミサイル運用能力が大幅に強化されたタイプです。これによりポーランド海軍の防空能力は大きく向上するでしょう。

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(オーストラリア海軍のアデレード級フリゲート4番艦のダーウィン、元は米国のO.Hペリー級 画像はwikipedia https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%87%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%89%E7%B4%9A%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%88#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB%3AHMAS_Darwin_F-04.jpg より)
 
海の暗殺者こと潜水艦も、ポーランドは新たに3隻購入することを計画しています。現在運用されているコッベン級潜水艦を置き換える「オルカプログラム」について、現在ポーランドはスウェーデンのサーブ・フランスのDCNS・ドイツのティッセンクルップの3社から潜水艦の提案を受けていて、今年中の選定完了を予定しています。今のところ有利とされているのがスウェーデンのサーブ社が提案しているA26型潜水艦で、この潜水艦の特徴は静粛性などに加えて艦の前方に特殊部隊や潜水艇などを入れるチェンバーが設けられているところです。これは左右魚雷発射管のの間に設けられていて、これにより特殊部隊による情報収集を含めた沿岸域での作戦を支援することができます。

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(サーブが提案しているA26型潜水艦、艦前方に特殊部隊用のスペースが見える 画像はSUPER STEALTHY SAAB SUBMARINES http://saab.com/region/saab-australia/about-saab-australia/latest-news/stories/stories---australia/2015/super-stealthy-saab-submarines/ より引用)

 ポーランドはこうした海軍力に加えて地対艦ミサイルの増強も模索しています。ポーランド国防省は昨年、対艦ミサイルNSM(Naval Strike Missiles)を追加で購入し、3個目の沿岸防衛部隊を編成する構想を明らかにしました。このNSMは射程200kmを誇る長射程の対艦ミサイルで、敵に発見されにくいステルス性を有しています。現在ポーランドはNSMを装備する沿岸防衛部隊を二つ有していますが、3個目の部隊が編成されればバルト海に強力な壁が築かれることになるでしょう。しかしポーランド国防省によれば、NSMの運用にあたって一つ問題があります。それが索敵能力の不足で、200kmの射程をカバーする索敵能力がポーランドには無いといいます。その打開策として、ポーランド国防省は無人機の活用を検討しています。

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(国際航空宇宙展に展示された対艦ミサイルNSM 筆者撮影)

空:戦闘機選定作業と
長射程巡航ミサイルの配備
 ポーランド空軍では現在旧式化したSu-22・Mig-29の後継機選定を実施しています。元々は米国から中古のF-16を96機購入して、それを国内で近代化改修する予定でした。しかし今年に入り、近代化改修にかかるコストが莫大であることを理由にこの案は早々に廃案となり、現在F-16の新型かF-35を購入するかという2つの選択肢を検討しています。ただどちらも関わる企業がロッキードマーチンであるため、他社が関わる場合と違って選定作業における対立を避けられるのは利点の1つでしょう。
 さらにポーランドは昨年12月に、米国から長射程空対地巡航ミサイル「JASSM-ER」70発を購入する契約を結びました。JASSM-ERは射程1000kmを誇る長射程の巡航ミサイルで、慣性航法/GPS/赤外線画像により目標を識別・攻撃可能で、データリンクにより発射後の目標変更も可能です。さらにステルス性も有しているため、攻撃される側にとっては厄介な兵器です。ポーランドは通常のJASSMも2014年に購入しており、こちらは射程が370kmとかなり短くなりますがそれでも敵の防空システムの外側から攻撃が可能です。これらの長射程兵器により、ポーランドは隣接するロシアの飛び地カリーニングラードや、場合によってはロシア本土をも攻撃することができます。ちなみにJASSM/ERはどちらも、すでに保有しているF-16C/Dで運用されます。

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(ポーランドの上にあるのがロシアの飛び地であるカリーニングラード Google Earth より)

ミサイル防衛:ロシアの
ミサイルに対抗する新兵器
 先述したカリーニングラードにロシアが射程500kmを誇る短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を配備したため、ポーランドはミサイル防衛能力の強化を求められています。そこで興味を示したのが防空システムのパトリオットです。ポーランドは新たな中距離防空システムを整備する「Wislaプログラム」を始動し、複数の防空システムの中から選んだのがパトリオットでした。今年の3月に、ポーランドは米国にパトリオット購入に関する文書を提出し、今年11月に最終合意を結ぶ予定です。
 しかしポーランドの要求はかなり特殊で、交渉は難航が予想されます。というのもポーランドは8個分のパトリオットシステムを導入する予定ですが、その内2つは現在ノースロップグラマンが米陸軍向けに開発中の戦闘指揮システムである「IBCS(統合戦闘指揮システム)」を搭載し、残りの6つにはこれもまた開発中のガリウムナイトライド(GaN)を用いて索敵範囲を増強した360度をカバーする新型レーダーを組み込むことを要求しているのです。つまり未だに米軍にさえ実戦配備されていないようなシステムを要求し、米軍に配備されるのとほぼ同時に自国にも輸出するよう求めているのです。これについては輸出が認可されるかなど、極めて難しい交渉が予想されそうですし、なにより肝心のIBCSが現在開発が難航していることから、ポーランドの計画がズレてしまう可能性も否定できません。
 もう1つ、ポーランドのBMDに大きな役割を果たすのが陸上イージスこと「イージスアショア」です。イージスアショアは艦船に搭載されているイージスシステムをそのまま陸上施設に移植したもので、SPYレーダーを壁面に組み込んだ建物と迎撃ミサイルを装填した垂直発射システム(VLS)から構成されています。このイージスアショアは米国の欧州におけるミサイル防衛能力の段階的適応アプローチ(PAA)のフェーズⅢの一環として、2018年にポーランドに配置されます。ポーランドに配置されるイージスアショアは最新のBMD用ソフトウェアであるBMD5.1がインストールされることになっていて、これにより射程2000km・射高1000kmを誇る最新鋭の迎撃ミサイルSM-3ブロック2Aを運用することが可能です。つまりポーランドの大部分がイージスアショアの防護圏内に入ることになり、カリーニングラードからのミサイル攻撃を防ぐことが可能になりそうです。しかし米国は建前として、このイージスアショアは中東イランからのミサイル攻撃を防ぐためのものであるとしていますので、カリーニングラードについて米国が直接結びつけるかは分かりません。

 このように、ポーランドはロシアの脅威に全力で対応する構えです。

参考記事
・「Polish Defence Ministry Unveils $14.5B Modernization Programhttp://www.defensenews.com/articles/polish-defence-ministry-unveils-145b-modernization-program (2017年4月5日 22時23分最終更新)

・「Poland is looking to boost its fleet of preowned Leopard tankshttp://www.defensenews.com/articles/poland-is-looking-to-boost-its-fleet-of-pre-owned-leopard-tanks (同上)

・「Rheinmetall, Bumar-Labedy Sign $144M Polish Tank Modernization Dealhttp://www.defensenews.com/story/defense/land/vehicles/2016/02/19/rheinmetall-bumar-labedy-leopard-polish-tank/80615350/ (同上)

・「Poland eyes frigates from Australia, new submarineshttp://www.defensenews.com/articles/poland-eyes-frigates-from-australia-submarines (同上)

・「Poland Eyes Third Missiles Squadron, Subs for Navyhttp://www.defensenews.com/articles/poland-eyes-third-missiles-squadron-subs-for-navy (同上)

・「Poland mulls F-35, F-16A/B fighters acquisitionhttp://www.defensenews.com/articles/poland-mulls-f-35-f-16a-b-fighters-acquisition (同上)

・「Poland Mulls F-16 Purchase From UShttp://www.defensenews.com/articles/poland-mulls-f-16-purchase-from-us (同上)

・「Poland to equip F-16s with new US cruise missiles – militaryhttps://www.google.co.jp/amp/s/www.rt.com/document/585e993fc36188422f8b45fa/amp (同上)

・「Poland Wants Extended-Range JASSM Missileshttp://www.defensenews.com/articles/poland-wants-extended-range-jassm-missiles (同上)

・「Poland poised to buy Patriot, months of negotiations aheadhttp://www.defensenews.com/articles/poland-poised-to-buy-patriot-months-of-negotiations-ahead (同上)

・「Poland Eyes Expanded Missile Defense Amid Fear of Russiahttp://www.defensenews.com/story/defense/2016/07/25/poland-eyes-expanded-missile-defense-amid-fear-russia/87533428/ (同上)