ロシア海軍を封じ込める 米・英・ノルウェーの「P-8Aトライアングル」 | 因幡のブログ

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 近年ロシア海軍の動きが活発化してきています。これにより米国は北大西洋での動きを制限される可能性も指摘されていますが、これに対処する策を近年米国は欧州諸国と進めています、それが個人的に筆者が「P-8Aトライアングル」と呼んでいる取り組みです。
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(対潜哨戒機P-8A 画像はwikipedia https://ja.m.wikipedia.org/wiki/P-8_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F) より)

活発化するロシア海軍の潜水艦
 2016年2月、当時の米欧州軍司令官フィリップ・ブリードラヴ空軍大将は、ロシア海軍の潜水艦が北大西洋や地中海での行動を活発化させてきたことにより、米海軍の攻撃型原潜は「ゾーンディフェンス」を実施せざるを得なくなったと発言しています。従来はロシア海軍の潜水艦の動きが低調だったために、米海軍の攻撃型原潜がそれに単艦で張り付く事が出来たのに対して、近年は単艦でより広いエリアをカバーする必要性に迫られたということでしょう。
 また2015年末には、ロシア海軍黒海艦隊所属の改キロ級潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌ」が、地中海から巡航ミサイル「カリブル」でシリアのラッカにあるテロ組織「IS」の拠点等を攻撃しました、こちらは日本のメディアでも大きく取り上げられたので、覚えておられる方が多いと思います。冷戦終結以降、しばらく低調だったロシア海軍の活動は、近年次第に活発化してきているのです。

米・英・ノルウェーの
「P-8Aトライアングル」
 こうしたロシア海軍の動きに対して、昨年来米国は欧州諸国と緊密に連携することを模索しています。その連携の鍵となるのが、対潜哨戒機「P-8A」です。P-8Aは米海軍の対潜哨戒機P-3C の後継として誕生した新型対潜哨戒機で、ベースとなったのは旅客機のボーイング737-800ERXです。細かな点は省きますが、搭載する優秀なレーダーやセンサーにより、従来機より優れた対潜・対水上警戒能力を持ちます。そんなP-8Aの導入を決めたのが、英国とノルウェーです。
 英国は長年対潜哨戒機としてニムロッドを運用してきましたが、2011年の退役以降、主に予算面の影響でその後継選定は停滞していました。そして2015年末に、英国は9機のP-8Aを後継として導入することを決定したのです。英国は自国の戦略原潜(核ミサイルを搭載した原潜)や、新造されるクイーンエリザベス級空母2隻の運用にあたって、対潜哨戒機がないとロシア海軍の潜水艦からこれらの装備を守ることができず、このP-8A購入は非常に重要な意味を持ちます。英国の最初のP-8Aは、2019年に英国に到着予定です。
 ノルウェーは哨戒機として米海軍と同様にP-3と、ダッソーファルコン20を運用してきましたが、それらの後継機として昨年5機のP-8A導入を決定しました。ノルウェーは非常に広大な領海や排他的経済水域を持っていて、それを守るには哨戒機の維持が不可欠なのです。ノルウェーへの到着は2021〜2022年の予定です。
 また米海軍もP-8Aを導入することは先述した通りですが、そのP-8Aを北大西洋に浮かぶ島国アイスランドのケフラビーク基地に配備する準備を進めています。元々ケフラビークには、冷戦期にソ連の潜水艦を監視するためにP-3C が配備されていましたが、冷戦の終結を受けて2006年に撤退していました。しかし2015年、米軍はケフラビークでP-8Aを運用すべく、機体を収容するハンガーのドアをP-8Aの尾翼の高さに合わせる改修を行うと発表しました。
 冷戦期もこの3カ国は対潜哨戒で協調していましたが、今再びP-8Aという共通の装備によってその体制が復活することになります、これを筆者は「P-8Aトライアングル」と呼んでいます。これにより北大西洋のロシア海軍を監視する能力は、飛躍的に向上することになるでしょう。

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(イギリス・ノルウェー・アイスランドの位置関係、見事な三角形が形成されているのがわかる。 画像はGoogle Mapより)
 
3カ国によるP-8A運用の協力
 昨年11月10日、英国政府はノルウェーと対潜哨戒機の運用に関して、コスト低下や運用の有効性向上を目指して緊密に連携することを確認したと発表しました。また今年1月25日、今度は米国と英国が北大西洋での対潜哨戒機の運用に際して緊密に連携することを確認し、ロジスティクスや支援基地などによる欧州でのP-8Aの運用を容易にすることを目指す合意を行なったと発表しました。
 英国とノルウェー、そして米国と英国がそれぞれ結んだこれらの合意はいったいどのような意味を持つのでしょうか。一つは北大西洋でのP-8Aの運用で緊密に連携し合うことで、共通の状況認識や隙間ない警戒網を構築する下地を形成出来たこと、そしてもう一つ重要なのがP-8Aの運用コストを削減する第一歩を踏み出したということです。 例えばP-8Aのスペアパーツやソノブイなどの装備品を購入する際に、米国から英国とノルウェーが各々単独で購入するよりも、米国から英国・ノルウェーが一緒にまとめて購入する方が、一度に大量に購入する分単価が安くなります。実際英国のファロン国防相は、先述したノルウェーとの話し合いにおいて、装備品の共同調達について話し合ったことを認めています。こうした取り組みにより3カ国が連携すれば、P-8Aをより低コストで運用することが可能になります。

 こうした米国・英国・ノルウェーの連携が、北大西洋でロシアと対峙することになります。

参考記事
・「The Navy needs more robot submarines for missions nowhttps://www.navytimes.com/articles/navy-robot-drone-undersea-submarine-boat (2月25日閲覧)

・「State Department Clears P-8 Sale to Norwayhttp://www.defensenews.com/articles/state-department-clears-p-8-sale-to-norway  (同上)

・「Northern Triangle: US, UK and Norway's Expanding Alliancehttp://www.defensenews.com/articles/northern-triangle-us-uk-norway-growing-alliance (同上)

・「UK and Norway agree new cooperation on Maritime Patrol Aircrafthttps://www.gov.uk/government/news/uk-and-norway-agree-new-cooperation-on-maritime-patrol-aircraft (同上)