あるところに、貧しいながらも楽しく仲よく暮らすカエルの親子がいました。
カエルの父さんは毎日遠くの町まで仕事に出かけ、子供はいつもお腹を空かせてひとりで父さんの帰りを待っていました。
ある日のこと、父さんは白い紙に包まれた、丸くていい匂いの食べ物を買ってきました。
包みを開くと、ドーナツがひとつ入っていました。
「パパ、これはなぁに?」
「これは『どーなつ』というものだよ。町に新しくお店ができてね、おまえに食べさせたくて買ってきたんだ。」
カエルの子供は初めて見るドーナツを手に取ると、真ん中の穴をのぞいて父さんを見ました。
「パパ、真ん中がないよ?」
穴の向こうには、幸せそうにほほえむ父さんが見えます。
「ごめんよ、お腹が空いたから、つい帰りに食べちゃったんだよ。だから『残り』は全部おまえが食べなさい。」
「うんっ!」
カエルの子供はクンクンとそのいい匂いを吸い込んでから、大きな口を開けてパクッと食べました。
初めて食べたそれは甘くてふわふわして、とてもうれしい味がしました。
「おいしかったかい?」
「うん、おいしかったぁ。もっと食べたいよ~。」
「じゃあまた買ってくるよ。」
「今度は真ん中を食べてこないでね。」
その日から毎日、父さんはドーナツをひとつだけ買って帰るようになりました。
でもいつも真ん中はありません。
ドーナツの穴から見える父さんは、いつも幸せそうに笑っていました。
しかしある朝、父さんは体を壊して倒れてしまいました。
お医者さんに診てもらいましたが、しばらくして父さんは死んでしまいました。
カエルの子供は悲しくて、毎日泣いていました。
おいしいドーナツを買ってきてくれる優しい父さんは、もういません。
そして時は流れ、子供だったカエルも今ではすっかり大人になりました。
ある冬の日、カエルは子供の頃に父さんが仕事をしていた町に引っ越してきました。
父さんから町の話は聞かされていましたが、やってくるのは初めてのことです。
初めての大きな町はとてもにぎやかで、見たこともないものであふれていました。
ふと大通りに差しかかった時、何とも懐かしい匂いが鼻をくすぐりました。
カエルがその匂いのする場所へと急ぐと、亀のおばあさんが開いているドーナツ屋さんがありました。
「いらっしゃいませ。」
「すみません、これって…?」
「これはドーナツですよ。お客さん、初めてですか?」
「いえ、食べたことはありますが、どうしてもう真ん中がないんですか?」
「面白いことをおっしゃいますね、ドーナツは初めから穴が開いているものでございますよ。」
亀のおばあさんは、にっこり笑って言いました。
カエルはその時初めて知ったのです。
子供の頃に父さんが真ん中を食べたと言っていたのは、お腹を空かせた息子のためについた優しい嘘だったということを。
カエルの目から、涙がポロリとこぼれました。
「そういえばこのお店を開いたばかりの頃、あなたによく似たカエルさんが、毎日ひとつだけドーナツをお買いになられていたのを思い出しました…。」
「えっ?」
「お子さんがドーナツを楽しみにしていると、いつも幸せそうにお話されていたのが懐かしいですね。」
カエルの胸の中に、あの幸せそうにほほえむ父さんの顔が浮かんできました。
「すみません、その『どーなつ』をふたつ下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
小さな箱に入れてもらったドーナツを手に、カエルは引っ越したばかりの家に帰りました。
「パパ、おかえりなさ~い!」
カエルがドアを開けると、暖炉に火のともる暖かい部屋から、奥さんと息子が出迎えてくれました。
「ただいま。はい、おみやげだよ。」
「やった~!」
まだ小さな息子が箱を開けました。
「パパ、これはなぁに?」
「これは『どーなつ』というものだよ。町にお店があってね、お前たちに食べさせたくて買ってきたんだよ。」
「でもパパ、真ん中がないよ?」
まるで昔の父さんとの会話のようです。
「その穴をのぞいてごらん。」
息子がドーナツを手に取って穴の向こうを見ると、父さんと母さんが笑っています。
「その穴にはね、『幸せ』が詰まっているんだよ。」
「ん~、よくわかんないや。パパ、2コしかないよ。」
「パパはいいんだ、いっぱい食べたからもう十分に幸せなんだよ。」
テーブルを囲むカエルの家族に、あたたかくて優しい時間が流れていました。
カエルの父さんは毎日遠くの町まで仕事に出かけ、子供はいつもお腹を空かせてひとりで父さんの帰りを待っていました。
ある日のこと、父さんは白い紙に包まれた、丸くていい匂いの食べ物を買ってきました。
包みを開くと、ドーナツがひとつ入っていました。
「パパ、これはなぁに?」
「これは『どーなつ』というものだよ。町に新しくお店ができてね、おまえに食べさせたくて買ってきたんだ。」
カエルの子供は初めて見るドーナツを手に取ると、真ん中の穴をのぞいて父さんを見ました。
「パパ、真ん中がないよ?」
穴の向こうには、幸せそうにほほえむ父さんが見えます。
「ごめんよ、お腹が空いたから、つい帰りに食べちゃったんだよ。だから『残り』は全部おまえが食べなさい。」
「うんっ!」
カエルの子供はクンクンとそのいい匂いを吸い込んでから、大きな口を開けてパクッと食べました。
初めて食べたそれは甘くてふわふわして、とてもうれしい味がしました。
「おいしかったかい?」
「うん、おいしかったぁ。もっと食べたいよ~。」
「じゃあまた買ってくるよ。」
「今度は真ん中を食べてこないでね。」
その日から毎日、父さんはドーナツをひとつだけ買って帰るようになりました。
でもいつも真ん中はありません。
ドーナツの穴から見える父さんは、いつも幸せそうに笑っていました。
しかしある朝、父さんは体を壊して倒れてしまいました。
お医者さんに診てもらいましたが、しばらくして父さんは死んでしまいました。
カエルの子供は悲しくて、毎日泣いていました。
おいしいドーナツを買ってきてくれる優しい父さんは、もういません。
そして時は流れ、子供だったカエルも今ではすっかり大人になりました。
ある冬の日、カエルは子供の頃に父さんが仕事をしていた町に引っ越してきました。
父さんから町の話は聞かされていましたが、やってくるのは初めてのことです。
初めての大きな町はとてもにぎやかで、見たこともないものであふれていました。
ふと大通りに差しかかった時、何とも懐かしい匂いが鼻をくすぐりました。
カエルがその匂いのする場所へと急ぐと、亀のおばあさんが開いているドーナツ屋さんがありました。
「いらっしゃいませ。」
「すみません、これって…?」
「これはドーナツですよ。お客さん、初めてですか?」
「いえ、食べたことはありますが、どうしてもう真ん中がないんですか?」
「面白いことをおっしゃいますね、ドーナツは初めから穴が開いているものでございますよ。」
亀のおばあさんは、にっこり笑って言いました。
カエルはその時初めて知ったのです。
子供の頃に父さんが真ん中を食べたと言っていたのは、お腹を空かせた息子のためについた優しい嘘だったということを。
カエルの目から、涙がポロリとこぼれました。
「そういえばこのお店を開いたばかりの頃、あなたによく似たカエルさんが、毎日ひとつだけドーナツをお買いになられていたのを思い出しました…。」
「えっ?」
「お子さんがドーナツを楽しみにしていると、いつも幸せそうにお話されていたのが懐かしいですね。」
カエルの胸の中に、あの幸せそうにほほえむ父さんの顔が浮かんできました。
「すみません、その『どーなつ』をふたつ下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
小さな箱に入れてもらったドーナツを手に、カエルは引っ越したばかりの家に帰りました。
「パパ、おかえりなさ~い!」
カエルがドアを開けると、暖炉に火のともる暖かい部屋から、奥さんと息子が出迎えてくれました。
「ただいま。はい、おみやげだよ。」
「やった~!」
まだ小さな息子が箱を開けました。
「パパ、これはなぁに?」
「これは『どーなつ』というものだよ。町にお店があってね、お前たちに食べさせたくて買ってきたんだよ。」
「でもパパ、真ん中がないよ?」
まるで昔の父さんとの会話のようです。
「その穴をのぞいてごらん。」
息子がドーナツを手に取って穴の向こうを見ると、父さんと母さんが笑っています。
「その穴にはね、『幸せ』が詰まっているんだよ。」
「ん~、よくわかんないや。パパ、2コしかないよ。」
「パパはいいんだ、いっぱい食べたからもう十分に幸せなんだよ。」
テーブルを囲むカエルの家族に、あたたかくて優しい時間が流れていました。