芝居「三下仁義」《「劇団翔龍」(座長・春川ふじお)〈平成21年8月公演・蟹洗温泉蟹座〉》 | 大衆演劇の名舞台

大衆演劇の名舞台

全国に150ほどある「大衆演劇」の名舞台を紹介します。

    芝居の外題は、昼の部「三下談義」、夜の部「幻お銀」。いずれも、大衆演劇には「よくあるお話」で、前者は「仁義間違い」をして斬られてしまった朋輩(藤美匠)の敵討ちをしようとして、返り討ちに遭ってしまう三下奴(座長・春川ふじお)の物語。二人は、ともに大阪・河内の貧農出身で、江戸の親分(中村英次郎)、代貸(藤川雷矢)のもとで「三下修業中」、仁義の稽古をしてたが、やって来たのが国定忠治(大月瑠也)という筋書で、何と仇役が国定忠治、終幕では三下奴に忠治をはじめ、「一同が」謝罪するという設定。「強いばかりが男じゃない・・・」といった眼目が「ほの見えて」、「綺麗な」結末となったが、何と言っても大月瑠也の「実力」には舌を巻く。合羽に三度笠の姿で登場、舞台に立っただけで(言うまでもなく無言で)「ああ、国定忠治だ」と納得させてしまう空気を醸し出す。加えて、強い者(女房、忠治)にはめっぽう弱い親分を演じた中村英次郎の「魅力」も見逃せない。主役は、春川ふじお、藤美匠、見どころはその「三下同志」の「絡み」だが、同時に脇役の「実力」「魅力」を楽しめるという趣向で、まさに「一度食べて二度おいしい」という舞台であった。そのことは、夜の部「幻お銀」についても言えること、主役は幻お銀・澤村うさぎで、眼目は「身代わり孝行」物語だが、本筋以上に面白いのが、盲目の母(中村英次郎)や土地の悪親分(大月瑠也)の「言動」で、とりわけ大月が「二十年前の出来事」を子分役(実は十四歳の息子・大月聖也)に問い質す場面は、「楽屋ネタ」も絡んで抱腹絶倒の連続であった。ことほど左様に、「劇団翔龍」の舞台には、中村英次郎、大月瑠也の「存在」は不可欠であり、その魅力を味わえるだけで大満足なのだが、さらに欲を言えば、花形・藤川雷矢、澤村うさぎの「大化け」、若手・翔あきら、大月聖也の「大活躍」も期待したい。どの劇団にとっても大切なことは、「飛躍」「発展」「変化」し続けようとする姿勢であり、その途上にある劇団ほど、若手、はした役者が光り輝いているものなのだ、と(つくづく最近)私は思うようになった。

 

 


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