芝居「奥様仁義」《「市川千太郎劇団」〈平成21年10月公演・大阪浪速クラブ〉》 | 大衆演劇の名舞台

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    芝居の外題は「奥様仁義」。女侠客(座長・市川千太郎)が大店の若旦那(白竜?)に見初められて嫁入り、「若奥様」に納まるが、大番頭(市川良二)との「そりが合わず」、ことごとく対立する「絡み合い」が、ドタバタ喜劇仕立てで、何とも面白い。若奥様は、あくまで「女」だが、時々「男」になる。「女」から「男」、「男」から「女」への切り替え(変化・へんげ)が「見せ場」「見どころ」だと思われるが、その景色・風情を十二分に堪能することができた。加えて、「春陽座」から転入した中堅・白竜の舞台姿を見られたことも、大きな収穫であった。舞踊の実力は折り紙付き、今回は芝居でも「積極的に」「いい味」を出し切っていた、と私は思う。座長の父・市川千草も相変わらず「達者」、大店の女主人としての「貫禄」をコミカルに演じ、劇団にとってなくてはならない「存在感」を顕示していた。御当所「浪速クラブ」では、(私にとっては)観客もまた「役者」、開演後(ミニショーの最中)に入場した一人の酔客(男性高齢者)が、客席後方の暗闇の中で、長椅子に躓き転倒、なかなか起き上がれない。付き添った従業員が起こそうとするが、思うに任せず、四苦八苦の様子、後方の観客は舞台よりも「面白がる」空気が、何とも殺伐としていて魅力的であった。件の酔客、「(転んだ拍子に)金をばらまいてしまった」と訴え、自分の体より「金の方を気にかける」風情も、《大阪的》で気持ちよかった。従業員、必死に「今は真っ暗、休憩になって明るくなったら、金拾うサカイ、待ッテテヤ」などと酔客を説得、やっとのことで客席に座らせることができた。やがて休憩タイム、先ほどの従業員、ティッシュペーパー持参で酔客に近づき、「お客さん、耳の下、血イ、出とるわ、これで拭いてンカ」などと介護する。肝腎の「金」はどうなったのか。よく見ると、そのオッサン(酔客)、左手に五千円札を含めて数千円 しっかりと握りしめていたのであった。一方、客席前方でも、中高年女性客が「睨み合い」「罵りあい」、その原因は明らかではないが、どうやら「前売り券」「座席指定券」に関するトラブルらしい。顔は引きつり、声はうわずりといった「様子」は、舞台の役者以上に迫力があって、実に興味深い。しかし、歌謡・舞踊ショーが始まる段になると、なぜか沈静して(何事もなかったように)舞台に集中する。なるほど、御当所の常連客は、芝居を観るるだけでは物足りず、自分たちも「演じ」に来場するということか。関西風の観劇方法は「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」といった阿波踊りに「共通」しているんだ、と妙に納得して帰路についた次第である。

 

 


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