芝居「源助地蔵」《「劇団天華」(座長・澤村千夜)〈平成23年10月公演・大阪梅南座〉》 | 大衆演劇の名舞台

大衆演劇の名舞台

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    芝居の外題は「源助地蔵」。堤防工事を請け負った侍(座長・澤村千夜)と、その家に出入りする植木職人・源助(副座長・澤村神龍)の物語である。源助には女房(澤村ゆう華)との間に第一子・源太郎(抱き人形)が生まれたばかり、長屋の一同が集まってお祝いをしている。赤ん坊を皆で抱き回す風情が、なんとも滑稽でたいそう面白かった。皆が帰った後、源助が、浮かない顔で帰宅する。御主人の様子が、いつもと変わって沈み込んでいるとのこと、何もなければよいがと話し合った後、奥に引っ込んで食事となった。そこにやってきたのが件の侍、足取りも重かったが、意を決して源吉宅の戸を叩く。応対に出た女房とは旧知の間柄と見え、親しく言葉を交わし合うが、時々、客席から笑いが起こる。(どうやら、侍役の座長と女房役の澤村ゆう華は実の夫婦らしいが、確証はない)生まれたばかりの源太郎を侍が「抱きたい」と所望、抱き方をあれこれと女房から教えてもらう様子もまた滑稽で、一段と絵になる場面であった。やがて、源助も登場、侍と二人だけの話になる。侍曰く「堤防工事が相次ぐ事故で順調に進まない。占い師に見てもらうと、子年の人柱を立てることが肝要とのこと。当藩には子年の侍は皆無、ついては、子年のおまえにぜひとも人柱になってもらいたい」。源助、仰天して「あっしには女房、子どもがおります。そればかりは・・・」と断るが、「そうであろうな。では、私はこの場で腹を切る」という侍を前にしては、どうしても断り切ることができなかった。かくて、恋しい女房、子どもと別れ、御主人のために人柱となって死んでいく。筋書きとしては単純、また、誰一人として悪人は登場しないのに、結果としては善良な「無辜の民」が犠牲になる「不条理さ」、が鮮やかに描出されていた。役者一人一人の心優しき「ぬくもり」が、その悲しい景色をいっそう際だたせる、超一級品の人情芝居に仕上がっていた、と私は思う。発展途上であった「劇団」が、今、間違いなく「大化け」(大成長)したことは間違いない。斯界の名人・喜多川志保の「参加」にも関わる結果であろうか・・・、などと思いを巡らしつつ、飛田のオーエス劇場に向かった。

 

 


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