芝居「大島情話」《「劇団紫吹」(座長・紫吹洋之介)〈平成23年2月公演・大宮健康センター湯郷〉》 | 大衆演劇の名舞台

大衆演劇の名舞台

全国に150ほどある「大衆演劇」の名舞台を紹介します。

 劇場の案内パンフレットには以下のように紹介されていた。〈劇団紹介 座長・紫吹洋之介・生年月日:1972年4月8日 出身地:神奈川県 初舞台:18歳 ゆの郷おなじみ「若葉劇団」の愛洋之介座長。「若葉劇団」で芸を磨き、平成21年4月に「劇団紫吹〉を旗揚げ。若葉から受け継がれたお芝居を「紫吹」の看板として、「芝居の紫吹」の名を広めています。若手座員と一丸となって、お客様を裏切らない舞台を心がけチームワークの良い楽しい舞台が楽しめます。座長からの一言 みなさまお久しぶりです。約2年半ぶりに大宮に戻ってきました。新しく旗揚げをした「劇団紫吹」をぜひ応援して下さい。まだ浅い劇団ですが、座員共に一丸となり、楽しい舞台をごらん頂きます。ご来館をお待ちしております〉。そうそう、私は、約2年半前(平成20年9月)の舞台をここで見聞、以下のような感想を書いていた。〈夜の部、芝居の外題は「瞼の母」、何と、総師・若葉しげるが「番場の忠太郎」を演じるとあって、客席は「ダブルの大入り」、たいそう盛り上がったが、総師本人の口上にもあったように、「役者の賞味期限は短い」、親子ほど年齢の違う役者が、反対の「親子役」を演じることには無理があった。加えて、総師の真骨頂はかわいらしい「女形」、「渡世人」「遊び人」「股旅姿」は似合わない。もともと、配役に「無理」があったのだが、「ころんでもただでは起きない」のが大衆演劇、その「無理」「不釣り合い」を見事に払拭し、「喜劇・瞼の母」に塗り変えてしまったのが、座長・愛洋之介と一心座座長・若葉隆之介の「絡み」であった。料亭・水熊に出入りするヤクザ(若葉隆之介)と、その一家の用心棒(愛洋之介)が、忠太郎を「闇討ち」にしようとするのだが、忠太郎を待ち受けるまでの用心棒の様子が、何とも可笑しい。「体調不良」で「便意」をもよおす風情はともかく、「早く始末を付けて帰りたい」という「やる気のなさ」や、「忠太郎って、大きい奴?強そう?」「そうだよな、強いに決まってるよな」などと言うセリフが、総師の舞台姿と対照的で、実に「鮮やか」であった。いよいよ、終幕、忠太郎登場、意外な姿に「驚く」用心棒、用心棒の反応に、また笑いをこらえる総師、そのやりとりが「絶妙」で、まさに「名作狂言」を「オリジナル」化(パロディー化)した「名舞台」であった、と私は思う〉。さて、今日の舞台には、若葉しげる、若葉隆之介らの姿はなかったが、座長・紫吹洋之介は一段と腕を上げ、看板通り「芝居の紫吹」の名に値する舞台を展開していたのだった。外題は「大島情話」。場所は大島・波浮港、居酒屋を営む老爺(座長・紫吹洋之介)と放蕩息子(茜大介)、その嫁・お島(紫吹ゆり?)の物語である。婚礼当日、息子は、ぷいと家を出て3年間も行方がわからない。老爺は嫁に「あんなバカ息子のために辛抱することはない。はやくいい人を見つけて幸せになってくれ」と言うが、嫁は健気にも「私の亭主はあの人だけ・・・、もし嫁がダメならお(義)父っつあんの娘にしてください」だと・・・。老爺、さりげなく、「それほどまでに息子のことを・・・、いっそのことお父っつあんの嫁にとでも言ってくれれば・・・、やっぱりダメだろうな。年はとりたくねえもんだ」とつぶやく風情が(男の本音が露わにされて)何とも可笑しかった。そこへ、江戸の行商人(副座長・要正大)登場、亡妻に生き写しのお島に一目惚れ、3年も通い詰めとのこと、老爺「そうだったのか。遠慮するにはおよばねえ。はやく江戸に行って幸せになんなせえよ」だが、お島、頑として応じない。さらにまたまた、放蕩息子もヤクザ姿で帰ってきた。「お父っつあん!お久しぶりでござんす」、老爺一目見るなり、「なんだ!この野郎。今頃けえってきやがって!」と、どやしつける姿がなんとも面白く、絵になっていた。その勢いにたじたじとなる息子、「堅気になって、親孝行したいんだ」「バカ野郎、そんなこと信用できるか」「ウソじゃねえ、本当だ」。必死に頼む息子に老爺も折れたと思いきや、息子「ところで、父っつあん、頼みがある」「ナンだ!」「堅気になるには金が要る。百両都合してもらいてえんだ」。老爺、開いた口がふさがらず、「そんな金がどこにあるというんだ」「この家を売っぱらえばいいじゃねえか」「この親不孝者!」といった、丁々発止のやり取りに加えて、あくまでも冷静・無表情な息子、コミカルに激高する老爺の風情が、見事なコントラストを描出、観客の視線を舞台に釘付けにしていたのは、お見事という他はない。息子、女房のお島が「まだ居る」ことが分かると、「そうか、じゃあお島を売って金にしよう」など言い出す始末・・・。とうとう堪忍袋の緒が切れたか、老爺はお島に金を与えて、行商人の元に旅立たせる。すべては終わった。そんな時、息子、ふと一言「よかった」。それを聞きとがめた老爺、「何だと!、よかっただと?おめえ、気でも狂ったか、何がよかんたんだ!?」息子、応えて「これでいいんだ、こうでもしなけりゃ、お島のやつ、あの人の所に行かねえもんな・・・」思わず老爺絶句。「父っつあん、勘弁してくれ。俺は何もかも知っていたんだ」という大詰めの景色は秀逸、まさに「情話」の真髄を絵に描いたようで、私の涙は止まらなかった。なるほど「芝居の紫吹」、心底から「日本一!」というかけ声をかけたくなるような出来栄えであった。ところで、放蕩息子を演じた茜大介、副座長・要正大の兄ということだが、どこかで見たような気がする。もしかして、「都若丸劇団」の?だとすれば、彼もまた「大いに腕を上げ」たようだ。座員は、他に芸名不詳の男優(彼もいい味を出している)、女優・紫吹寿々女、レン、マオ、ミミ(?)らがいる。中でもレン、居酒屋を訪れた島の娘役で登場、他の娘たちに酒を勧められ「ダメ、ダメ、ダメ。・・・じゃあ、一杯だけよ」と言いながら、盃を飲み干したとたん、あとは「泥酔状態」に豹変する様はお見事。どの役者も「芝居のコツ」を心得ているとは、さすが「若葉劇団」から「暖簾分け」されただけのことはある、などと納得しながら帰路についた次第である。

 

 


にほんブログ村

アクセスカウンター