芝居「人生双六」《「劇団春陽座」(座長・澤村心)〈平成21年5月公演・浅草木馬館〉 | 大衆演劇の名舞台

大衆演劇の名舞台

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 芝居の外題は「人生双六」。正直者・庄五郎(沢田ひろし)と、若者・菊之助(澤村かずま)の「友情物語」である。世の中は不景気、仕事にあぶれた庄五郎、空腹を紛らわすために菰をかぶって寝ているが、どこからともなく聞こえてきた下手な歌声に目を覚ます。歌っていたのは空き巣を稼業としている泥棒野郎(澤村心)、「一緒に仕事をやらないか」と誘われた庄五郎、「とんでもない!男は額に汗して働くもの、まっぴら御免」と断固拒否。そこへやって来たのは、若者・菊之助、庄五郎と言葉を交わすうち、「人間、正直が肝腎、心に傷をもってはいかん」という言葉にハッとする。実を言えば、今しがた、百両という大金を拾得し、「ねこばば」しようと思っていたところ・・・。「そのお金を落とした人は、どんなに嘆いていることだろう。その気持ちを思えば、お返しするのが人の道」と反省する。菊之助、庄五郎に「すんでの所で、人の道を踏み外すところでした。大切なことを教えていただきありがとう」「ついては五年後に、ここでまた会いましょう。どちらが出世をしているか人生の競争(双六)をしませんか」と提案した。庄五郎も同意、かくて五年が経過した。所は、ある材木問屋の店先、「大変だ!誰かが身投げをした」という声と共に、助けられて登場したのは件の庄五郎、衣装はボロボロ、尾羽打ち枯らした風情で見る影もない。店主(澤村新吾)が事情を尋ねると、「五年前の約束の日になったが、菊之助に会わせる顔がない」と消沈する。店主、「わかりました。ぜひともその若者に会っておやりなさい、髪を結い衣装を整える足しにして・・・」と、小判を数枚差し出した。庄五郎、ありがたく頂戴、身なりを整えて約束の場所へ。先程とは打ってかわった「成金」の衣装姿が、なんとも「けばけばしく」絵になっていた。一方、若者・菊之助、約束通り今では大店の若旦那、見事に出世した勇姿を現した。思いっきり背伸びをしてみせる庄五郎との「やりとり」が何とも楽しく、絶妙の呼吸で観客を魅了する。やがて、庄五郎の「化けの皮が剥がれる」という段取りだが、五年前、大金を落としたのは材木問屋の店主、それを届けたのは菊之助、届けるように諭したのは庄五郎、つまりは庄五郎の「正直さ」が、すべての「恩人だった」という結末で「めでたし、めでたし」という幕切れ。最後に言い放った庄五郎の名台詞、「菊之助さん、今から五年後!今度こそ『人生双六』でお目にかかりましょう」という言葉が、ことのほか頼もしく響き渡った次第である。

 

 


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