「やっと着いたあ!まじで遠かったっす。」
「だから言ったじゃない。留守番してなさいって。」
「それは無理っすよ。アスガルド・ワンに行く!なんて聞いたら、考古学部の血が沸騰しまっす。」
「はいはい。あまり長居ができないからね?検体を回収したら帰るわよ。

 それと、来たからにはしっかりと働いて。」
「了解っす!」
「なにが了解よ。ほら、さっさと環境をアップデートしなさい。」
「いつの間に!
 えーと、どこだっけかな?…」
「あー!もう!遅い!
 こっちで環境を設定するから早く来て!」
「すんません。」

「うお!すげえ!緑だらけじゃないっすか!」
「壮観ね。
 ここまでオリジナルの地球に近い惑星は、銀河連邦の中でも珍しいわ。」
「で、どこにあるんすか?」
「すぐそこよ。
 マップだと遺跡はあの丘の向こう。その中に検体があるはずだわ。」
「三万二千年前の着陸船かあ!やべえ!沸騰してきた!」
「余計なものは飛ばさない。分かってる?」
「分かってますって!見るだけっす!」
「あら?ここのはずなんだけど…。」
「着陸船っぽいのはないっすね?これは…、樹木ってやつ?」
「待って!
 ここは丘じゃない!ここら一帯が遺跡なのよ!

 私たちの足元、地中を調べてちょうだい。」

「そんな!デカすぎっす!」
「オリジナルが私達より大きくても不思議じゃないわ。今だって銀河連邦には色んなサイズの人類がいるんだから。」
「まあ、そうっすね。グレートインパクトさえなければなあ。」
「過ぎたことを言っても仕方がないわ。予知できなかった私達が悪いのよ。それでも人類は、銀河同士が衝突したあの大災害を生き延びた。
 失われた記憶を一つずつ繋ぎ合わせれば分かることがあるはず。それがきっと未来につながるわ。
 どう?地中の様子は分かった?」
「大あたり!この丘が着陸船っす。良さそうなポイント見つけたんで座標を送りますね!」
「ありがとう。先に入るわね。」
「あ!ズルイ!待ってくだいよお!」

「綺麗…。三万年も前のものとは思えないわ…。」
「よっと!痛っ!こっちはアフターインパクト世代なんすから、もう少し合わせてくださいよお!
 身体の純度が違う…んす…か…ら………、すげえ…。」
「私達の祖先は、本当に生身のまま飛んでいたのね…。

 見て!操縦席がある!」
「ソウジュウセキ?」
「乗り物を操るための原始的な機械よ。」
「これで?どうやって?」
「それはね…。例えばこれがあのレバーだとして…、こんな感じね。」
「ええ!手で!?手で操るんすか!?死にますよ?」
「生身なんだから仕方ないじゃない。
 この船もたくさんの人を乗せて移動していたのね。それこそ気の遠くなるような時間をかけて。」
「オリジナル人類、恐るべし…。巨人だし、化物にしか思えないっす。」
「それじゃあ、化物さんに会いにいきましょう。
 あの奥に二つ。そっちの奥に一つ。
 あなたはどっちにする?ちなみにそっちの奥は大きいわよ?」
「い、一緒に行かせてください!お願いしまっす!」
「そう。なら大きい方からね。
 細かく移動して、接近しすぎないように。近すぎるとシンクロするかも知れないから。」
「りょ、了解っす!」

「デカッ!これ、どこの部分すか?」
「…この組成は、レプリカヒューマン?
 オリジナルじゃない…。骨格は男性、骨が傷だらけだわ。兵士かしら?」
「無視しないでくださいよ!」
「ああ、そこはね。…口よ。」
「口!?マジっすか!
 うそ!これ、牙!?こんなデカイ牙に噛まれたら一撃で消えるっす!」
「人類の原種は咀嚼して食物を食べていた。学校で習わなかった?」
「へへへ、習ったっす。」
「そして生体寿命も長かった。生身のまま十五年以上生きたらしいわ。
 レプリカだから参考にならないかも知れないけど、生存期間を調べてみましょうか。」
「とんでもないっすね。今の銀河にご先祖様の大群が現れたら一瞬で征服されますよ!」
「そうかもね。
 すごい…。三百年近く生存してたみたい。」
「三百年!巨大すぎるし、もう『カミ』っすよ。大昔に人類と敵対してたカミは、巨大で長生きな種だったって。」
「なるほど…、おもしろいアイデアね。
 このレプリカは、カミと戦うために造られた兵士だった可能性を否定できないわ。それならカミほどではないにしろ、規格外の骨格にも納得がいく。
 サンプルを採取して、ラボで調べましょう。ここと、ここ。あとこっちのエリアを、それとここも、飛ばして。」
「了解っす。
 …さっき、カミほどではないって言いました?」
「言ったわよ。」
「カミって、このレプリカよりデカイんすか?」
「太古の単位で書かれた文献の話だから正確には分からないけれど、カミの大きさは人類の二倍から三倍あったとされるわ。寿命については長かった、とだけ。」
「もう化物すぎて驚けないっす。そんなのと戦ってたんすね、ご先祖様は。」
「これはトンデモ学説だから作業しながら聞いて。銀河は壮大な親子喧嘩に巻き込まれた、という説があるのよ。」
「親子喧嘩?」
「最初の人類が『あるカミ』の子供だった可能性を否定できないそうよ。その親カミと、兄弟達の加勢があったからカミに勝てた。一部の惑星では今でも熱狂的に信じられいるわ。」
「へえー。それって、あっちの方の惑星っすか?」
「そうそう、あっちの方。」
「終わったっす!」
「お疲れさま。次はいよいよオリジナルとご対面ね!」
「ごくり。オリジナルの化物っすね…。」
「こら!ご先祖様に失礼なこと言わないの!」

「…これって?どうなってんすか?」
「…分からない。分からないけど、これだけは言える。

 奇跡だわ!
 こんなにも保存状態が良い検体は初めてよ!いいえ、これは状態が良いなんてもんじゃない!
 見てごらんなさい!まるでさっきまで生きていたかのよう!
 なんて美しいの!これがオリジナル人類の姿!なんてことでしょう!牙だけでなく体毛まで生えてるわ!」
「いやいや!これ三万年前の死体っすよ!?
 死んだときのまま残ってるなんて、あるわけないじゃないっすか!」
「奇跡が目の前にあるのよ!どうしてないと言い切れるの?」
「まあ、そうなんすけどお…。
 一瞬だけスリープかと思ったんすけど、着陸船も制御も壊れてるし、やっぱありえないっす!」
「スリープ…。良い視点ね!調べてみましょう。」
「生きてるとかナシっすからね!」
「まさか。
 …安心して。二体とも間違いなく死体よ。
 どちらも女性。生存期間は…、体格の大きい方が約三十年、小さい方が約二十年…。驚いた!小さい方がオリジナルだわ。」
「生身で二十年!十分やべえっす!さすがオリジナル!

 …あれ?女性って言いました?さっきの骨は男性なんすよね?」
「そうね。それがどうかした?」
「いや、ツガイかと思っただけっす。歴史ある人種ほどツガイ化する傾向があるじゃないっすか。」
「一番の奇跡は、君が来たことかも知れないわ。私だけじゃ気づくのに時間が掛かったと思う。

 こういう仮説はどうかしら?
 ツガイは、小さい女性と先ほどのレプリカの男性で、大きい女性は、レプリカの体格が生殖遺伝した、その子供。」
「生殖遺伝?いくら昔の人でも、そんな危険なことしないっしょ!」
「ツガイの本来の意味を知らないのね。ツガイになるのは種の存続ためだったの。目的は繁殖よ。」
「うげえ!マジっすか!そう考えると汚えっすな。」
「ご先祖様がそうやって種を繋いでくれたから、今の私たちがあるのよ。
 ラボでの計画生産が始まる前は、性別があって、男女の遺伝子を掛け合わせるのが当たり前だったんだから。」
「そう言われても、いまさら尊いとは思えねえっす!やっぱ汚えっすよ。」
「今の価値観ではそうね。さてと、そろそろ飛ばす準備をしないと。
 ところで君は、死体にスリープを施した経験はあるかしら?」
「ないっす!そもそも遺跡以外で体を見たことすらないっす。」
「そうだと思ったわ。ま、私も同じだけど。
 まだ仮説だけれど、死体をスリープしたせいで……」
「ありえるっす!」
「どうしたのよ。まだ説明の途中なんだけど?」
「もう大丈夫っす!言いたいことは分かったっす。

 十分にありえるんすよ!デカすぎて気づかなかったんすけど、死体のあるこの部屋がスリープ装置なんすよ。

 意味不明なんすけど、生体対象のスリープ技術は化学的な遮蔽と物理的な遮蔽が全てらしいっす!」

「ちょっと!大丈夫?興奮しすぎて消えかけてるわよ?」
「大丈夫っす。

 おめでとうございまっす!仮説通りなら、この二体は死んだ直後の状態っすよ。

 問題は……」

「こんなに大きいものをどうやって飛ばすか。」

「その通りっす。細切れにしたら台無しっす。」

「困ったわねぇ…。

 あら?もう時間?

 ちょうど良いわ。ラボに戻って作戦を練りましょう。」

「了解っす!」

 

 

 

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