今回は寅さんシリーズの第3弾「男はつらいよ フーテンの寅」(1969年 森崎東監督)です。

 

前作からわずか2ヶ月後の公開。こう聞くと「粗製濫造」というワードが浮かびますが、とんでもない。なかなかの快作だと感じました。

 

ハイペースでの撮影となったため、本作の監督は山田洋次監督ではなく森崎東監督。「男はつらいよ」に企画段階から関わり、山田監督とともに寅さんのキャラクター付けを担った人でありますが、ペーソス溢れるしっとりした山田作品と違い、森崎作品の寅さんは実に若々しく、イキイキとしています。

 

オープニングでは宿屋の布団部屋で風邪のため寝こみ、くしゃみをしたら窓が頭に落ちてきて「落ち目だな~」とつぶやく寅さん。勝手な振る舞いに、日ごろは物静かな義弟の博を怒らせ、殴られたり地面に組み伏せられる一幕も。

 

湯の山温泉では、ひとめぼれした旅館の女将(新珠美千代)のために懸命に労きます。ときには、シングルマザーでもある女将の娘の遊び相手になることも。でも、番頭や女中からはその魂胆を見抜かれ、陰で馬鹿にされているわけです。

 

女将には長年にわたり交際を続けていた男性がいることを知り、ショックを受けながらも立ち去ることに。それでも未練があるのか、女将がいると思い込み、庭先から部屋に向かって別れの言葉を告げます。しかし、中にいるのは番頭と女中というオチ。ついぞその想いは女将に伝わることはありませんでした。

 

悲しいくらい道化師です。間抜けです。森川信のおいちゃんじゃありませんが、「バカだねぇ」としか言いようがありません(「イロノーゼ」は秀逸でしたが)。しかし、作中で体が不自由となったテキヤの先輩(花沢徳衛。渾身の演技でした)に仁義を切るシーンが出てきます。寅さんは渡世人であり、アウトローなのです。

 

身寄りのない、あてどもない旅を続ける渡世人がまっとうに働く市井の人からどのように見られているのか。そもそも、世の中でどういうポジションにあるのか。デリケートな部分ではありますが、この作品ではオブラートに隠さず、映し出しています。

 

エンディングでは船に乗り合わせた人たちに啖呵売を教えてやりますが、その表情は明朗そのもの。主題歌の歌詞にある「ドブに落ちても根のある奴は、いつかは蓮の花と咲く」の通り、底辺にありながらも常に前向きに生きていこうとするしぶとさ、力強い姿が表現されています。

 

寅さんのような人間の存在、生き方を、卑下するどころか尊いものとして描く。これが、森崎監督ならではのヒューマニズムなのでしょう。見終わった後はすがすがしい気分にさせられます。

 

河原崎建三、香山美子、野村昭子、左卜全といった実力派のゲストも花を添えていました。全体的にストーリーも演出も粗削りですが、渥美清が若く、タフなイメージにあふれてた時期でしか撮れなかったはず。その意味でも、異質ながらシリーズ中でも佳作だといっていいでしょう。

 


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