今月初め、日比谷図書文化館ミュージアムで開催されている『特別展 江戸からたどるマンガの旅 ~鳥羽絵・ポンチ・漫画~(後期)』を鑑賞してきました。

 

 

常設展の方は入ったことがあるのですが、特別展は初めて。最初はどう入館すればよいのかわからず、係の人にチケットの払い方などを教えてもらって何とか展示室に入れました。

 

日本発、世界をリードする立派なカルチャー文化の一つとして認知されている“マンガ”。その発祥は江戸中期の“戯画”にありました。鳥羽絵や幕末の歌川国芳に代表される浮世絵、さらにには明治、大正、そして昭和戦前と日本のマンガ文化が成熟していくまでの流れを時系列で追うという、意欲的な企画です。

 

マンガの歴史を紹介するという、結構珍しい催し。ミュージアムを訪れたときは後期展示でしたが、実は前期展示のときは開催の事実すら知らなかったのです。でも、見終わったときの感想は「前期があることも知っていたら、訪れていたのに…」でした。入館する前は「図書館の企画展だから、たいしたことないだろう」という思い込みがありましたが、完全に(いい意味で)裏切られました。かなり充実していましたね。

 

展示構成はまず、『商品としての量産マンガの誕生~江戸中期からの戯画の大衆化ー戯画本・戯画浮世絵』から始まります。こちらは江戸中期の、いわゆる鳥羽絵=戯画の成り立ちから幕末までの流れがメイン。描かれている人の目が黒丸でいかにも漫画チック。動きも滑稽で、さぞ当時の人々を楽しませていただろうことが伺えます。

 

その後も大津絵や死絵、浮絵、遊び絵など表現方法も多彩になっていきます。また、吹き出しやコマ割り、光線などの光の表現という現在のマンガでは当たり前の特殊効果もすでに浮世絵で用いられていた事実についても紹介。平和な時代が続くと庶民の要求も多彩になり、それに応えるようになっていったということでしょう。また、幕末には新政府軍と幕府軍の戦を子どものケンカとして表されていたのも面白いですね。そのままでははばかられるため、創意工夫が重ねられたということです。

 

注目したのは国芳の展示作品。初めて見たものばかりでした。特に『きたいなめい医難病療治』、こんな絵も描くのか驚きました。戯画を特集する場合、国芳は欠かせませんね。斬新な表現の数々には唸らされます。

 

個人的には、明治期以降の展示の方が興味を惹かれましたね。『職業漫画家の誕生~明治・大正期―ポンチ・漫画の時代へ』ではチャールズ・ワーグマンやジョルジュ・ビゴーらの発行した雑誌も展示。特に『ジャパン・パンチ』は当時の日本人に大きな影響を与えたようで、西欧の風刺画風の作品がポンチ絵と呼ばれ、その後の『漫画』の誕生へとつながっていきます。

 

明治後期に入ると、日本初の職業漫画家・北沢楽天が登場。彼が主催した『東京パック』はなんとカラー!ビジュアル的にも今のマンガ雑誌により近くなっていきます。また、漫画だけで食える人が現れたということは、ジャンルとしての認知度も進んだということでしょう。同時期には日本画家として知られる小杉未醒や小川芋銭らも漫画を描いていました。

 

大正に入ると、風刺画的なものから今につながるマンガ的な作品もさらに増えていきます。下川凹天や岡本一平といった人気作家も登場。大正時代に人気を博した麻生豊の『ノンキナトウサン』や、いまも根強い人気を誇る画・樺島勝一/作・織田小星による『正チャンの冒険』も展示されていました。正チャン、例の帽子や絵の雰囲気も合わせてかなりオシャレです。

 

そして最後に『ストーリー漫画の台頭~昭和初期・戦中期―子ども漫画の時代へ』と突入。戦後も人気を誇った『のらくろ』(田河水泡)や『冒険ダン吉』(島田啓三)、『タンクタンクロー』(阪本牙城)、さらには戦後の日本マンガの隆盛を決定的にした手塚治虫が作画を担当した『新寶島』などを展示。絵だけでなくしっかりとしたストーリーも求められるようになり、現在の百花繚乱の時代へとつながっていくわけです。

 

漫画というものが戦後にパッと生まれたわけではなく、江戸時代の出版文化の開花や浮世絵文化の誕生、西欧からの文明の流入といったさまざまな歴史を経て今がある、ということを改めて認識させてくれる展示でありました。解説などもわかりやすく、マンガに興味がなくても江戸時代の浮世絵に興味があれば(もちろん、その逆も)十分楽しめます。小冊子ももらえますので、300円でも安いくらいでした。

 


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