ある、春先の寒い早朝のことでした。
ケヤキのこずえの向こう側には、
星が冷たくまたたきました。
みすぼらしいなりの、年とった男が一人、
足を引きずりながらやって来ます。
そこは町からそう遠くない、
廃材と粗大ゴミが捨てられた場所でした。
彼はその捨てられた物の中で、数日暮らしていたのです。
男は汚れたボロボロの上着の襟を立て、
身を丸くして、寒さに耐えつつ歩いて来ました。
彼は空腹で、これから町に行こうとしていたのです。
ただし、そこで食べ物が得られるのかは、
定かではありませんでした。
+・*・+・*・+・*・+
彼が雑木林の道を震えながら歩いて行くと、
その脇に小さなモクレンの木がありました。
モクレンは幼い木であるにも関わらず、
春に向けて小ぶりなつぼみをつけていました。
男は薄汚れた大きな荷物を担いで、
モクレンをチラリと見ました。
そして「フン!」と小さく鼻で言い、
再び歩きだしました。
すると・・・
「あなたは自分の奥の輝きを見つめていない」
するどい口調の声がしました。
彼が驚いて振り向くと、
どうやらそれは先ほどのモクレンのようでした。
「あなたは自分の奥の輝きを見つめていない」
モクレンの声は再びするどく言いました。
「なんだって?!」
すると・・・
「あなたは自分の奥の輝きを見つめていない」
するどい口調の声がしました。
彼が驚いて振り向くと、
どうやらそれは先ほどのモクレンのようでした。
「あなたは自分の奥の輝きを見つめていない」
モクレンの声は再びするどく言いました。
「なんだって?!」
男はイライラし、木のそばに近づきました。
するとモクレンは毅然とした口調で言いました。
「私の花は、堅く乾いた地味な色の殻に覆われています。
けれどその中に白く、
美しい花びらが生まれているのを知っています」
「それなら・・・」
男はニヤニヤしながら言いました。
「いいことを教えてやろう。
ここはもうじき新しい道路を造る工事が始まる。
あそこの看板に書いてあったさ。
お前さん、なぎ倒されてペシャンコだ」
彼は勝ち誇ったように言いました。
するとモクレンはとても静かに答えました。
「そうですね。とても残念なことですが、
私もそれを知っています。
知っていて、生まれて初めてのつぼみを、
するとモクレンは毅然とした口調で言いました。
「私の花は、堅く乾いた地味な色の殻に覆われています。
けれどその中に白く、
美しい花びらが生まれているのを知っています」
「それなら・・・」
男はニヤニヤしながら言いました。
「いいことを教えてやろう。
ここはもうじき新しい道路を造る工事が始まる。
あそこの看板に書いてあったさ。
お前さん、なぎ倒されてペシャンコだ」
彼は勝ち誇ったように言いました。
するとモクレンはとても静かに答えました。
「そうですね。とても残念なことですが、
私もそれを知っています。
知っていて、生まれて初めてのつぼみを、
こうしてつけているのです」
小さな木は続けました。
「私は自分の中の、美しさと、可憐さ・・・
たゆたう夢を秘めているつぼみを
とどめておくことはできません。
たとえ花開く前に滅ぶ身だと知っていても・・・です」
男はモクレンの言葉が理解できず、
黙って聞いておりました。
モクレンは続けます。
「そして、本質的な私自身は、誰にも壊されることはありません。
なぎ倒されることも、死ぬこともありません。
私は、私自身の枝や、つぼみ、
そして根っこが私自身だとは思っていません。
私自身の本質は、やさしさと美しさ。
春を唄う純粋な心です」
小さな木は続けました。
「私は自分の中の、美しさと、可憐さ・・・
たゆたう夢を秘めているつぼみを
とどめておくことはできません。
たとえ花開く前に滅ぶ身だと知っていても・・・です」
男はモクレンの言葉が理解できず、
黙って聞いておりました。
モクレンは続けます。
「そして、本質的な私自身は、誰にも壊されることはありません。
なぎ倒されることも、死ぬこともありません。
私は、私自身の枝や、つぼみ、
そして根っこが私自身だとは思っていません。
私自身の本質は、やさしさと美しさ。
春を唄う純粋な心です」
男はモクレンを見つめ、
無表情で立ちつくしておりましたが、
「私はあなたのことも知っています」
・・・そう、モクレンが言った時、
彼は険しい目つきでその木を見ました。
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