※この物語は、生まれながらに不安障害を持った男が、2018年頃から現在に至るまでに辿った『実話』である。

 

 

 なおプライバシーの関係上、全ての人物は偽名とする。

 


〈前回のお話〉






 

《第121話   シンプル イズ ベスト》

 

 

「あ、うん」

 

 もうちょっと気の利いた返事しろよと、あの時の自分に言いたかった。

 

「この前はホントごめんね」

 

「ん? あ、うん、大丈夫」

 

 もうちょっと気の利いた返事をしなさいと、あの時の自分に言いたい。

 

「ねえ、今なにしてた?」

 

 ミナミは何に対する『ごめんね』なのかを、あえて言わなかったのだと思う。

 

 そうしたら、あの件に対して討論じみた会話になっていたから。

 

 ごめんね、で済む内容ではないけれど……。

 

 もしあの時の件に触れていたら、湿っぽくなって、もう前までの関係性に戻れなくなっていたと思う。

 

 そこまで考えて、ミナミはシンプルに『ごめんね』とだけ言ったのだろう。

 

 そういったことに関する、彼女の凄さを体感した時だった。

 

「えーっと、モンストやってた」

 

「モンスト? 独りで? 可哀想~」

 

「……それはどういう意味かな?」

 

「だってお休みの日の夜に独りでゲームなんて可哀想じゃん」

 

「じゃあミナミはなにしてたんだよ?」

 

「ミナミ? ミナミはねー、漫画読んでたんだ」

 

「じゃあ俺とほぼ同じだろ」

 

 俺が即ツッコむと、ミナミはキャハハと笑ったのだった。

 

                

                【第122話に続く】