※この物語は、生まれながらに不安障害を持った男が、2018年頃から現在に至るまでに辿った『実話』である。
なおプライバシーの関係上、全ての人物は偽名とする。
〈前回のお話〉
《第118話 ヤなことちょいリセット!》
無事、全ての工程が終わった。
「こんな感じでどうですか?」
工藤(くどう)さんは鏡を使って、俺に後頭部の出来上がりも見せながらそう言った。
セルフカットのせいでまばらだった髪が、綺麗に整えられて、俺自身が一新したとさえ思えるほどの出来上がりになっていた。
「あ、はい、ありがとうございます」
自分が新しくなったというか……。
すっきりしたというか、なんかこう、生まれ変わった感じ?
完全にとはいかないけど、嫌なことがリセットされた気がした。
「気になるところとかありませんか?」
「いえいえ、無いです」
工藤さんはニッコリ笑いながら鏡をしまった。
そして俺から髪よけを静かに剥がした。
「お疲れ様でした。ではこちらへ」
お会計に案内される寸前に、
「あの、またカットしてもらうことって出来ますか?」
俺は聞いた。
「えっと、指名? みたいな感じで」
工藤さんとなら、話に没頭できて、倒れちゃいけないと考えることは無いと思ったから。
それに工藤さんとは波長が合うというのだろうか。
会話してて気が楽だし。
「もちろんです。こちら、僕の名刺です」
俺は立ち上がり、工藤さんから名刺を受け取った。
「予約する時に名前を言えば大丈夫ですか?」
「はい、ぜひ」
工藤さんは嬉しそうに言った。
【第119話に続く】