※この物語は、生まれながらに不安障害を持った男が、2018年頃から現在に至るまでに辿った『実話』である。

 

 

 なおプライバシーの関係上、全ての人物は偽名とする。



 

 

《第75話  実はちょっと嬉しい和泉ンなのだった》

 

 

 誰かと思ったら、ミナミからだった。

 

「……もしもし?」

 

『ヤッホー。和泉ン(いずみん)元気?』

 

 物凄く弾んだ声が右耳に届いた。

 

「元気だけど……」

 

『ホントに大丈夫? ミナミの声が聞けなくて寂しくなかった?』

 

「いや全然」

 

『ちょっとそれどういう意味~?』

 

 声からして、ミナミの嬉しそうな表情が頭に浮かんだ。

 

 やはりこの手のイジられかたが好きらしい。

 

 何故かは不明だが。

 

『ねえねえ。明日、渋谷で会おうよ』

 

「あー、ごめん。仕事」

 

『え? 日曜に仕事あるの? 可哀想~』

 

 どういう意味だ。

 

「じゃあそういうことだから」

 

『ちょっと~。なんでそんなにツンケンしてるの? ミナミの声が聞けて嬉しいくせに』

 

 そこまで嬉しくないんだけど……。

 

 なにせ詐欺師の可能性が高いし。

 

 ……いや、それは嘘だった。

 

 白状すると、少し嬉しかったりしたのだ。

 

 会ってから数日間、ラインが来ることに期待していた自分が心の奥底に居たのだ。

 

『まあいっか。和泉ンって夜ご飯なに食べた?』

 

「え、今日?」

 

『うん。今日』

 

「オリジン弁当だけど」

 

『え、なにそれ可哀想~』

 

「……それはどういう意味かな?」

 

『ワンコインで済む夜ご飯は可哀想じゃん』

 

「そう言うミナミは何食べたんだよ?」

 

『私はね~。セブンイレブンのお弁当だよ』

 

「じゃあ俺とほぼ同じだろ」

 

 光の速さでツッコむと、ミナミがキャハハと笑った。

 

 

               【第76話に続く】