新富士駅のベンチで竹取物語弁当を広げた瞬間から、
カナとソラのドタバタは始まっていた。
かぐや姫伝説と富士市の関係図
カナは富士市に伝わるかぐや姫伝説を卒論に選び、
さらに最近、富士市役所への就職が内定したばかり。
広報担当を志願し、
「富士市を全国区にする!」
と、内定者とは思えないほどの暴走気味の使命感に燃えている。

ソラはその勢いに巻き込まれ、東京から連行されてきた友人だ。

二人は市役所屋上「みえるらー」へ移動し、
富士山をバックにカナの“かぐや姫講義”が始まった。


「無理難題を押しつけて名だたる男たちを振り回し、最後は翁夫婦まで置き去りにする……
かぐや姫って、実はけっこう性格悪くない?」

「いや、そこまで言う?」

「古文書に書いてあったのよ! ほらこれ!」

カナがメモを広げると、ソラは眉をひそめた。

「字が汚すぎて読めないんだけど」
「うるさい!!」

古文書を求めて訪れた永明寺では、
住職が「絶対に見せない!」と頑なに拒んだ。

しかしカナは、ソラの豪快なくしゃみで住職がビクッとした隙に
古文書をチラ見することに成功した。

そこには衝撃の一文。

――かぐや姫、月から永久追放。
――周囲に嘘をつき、富士市に居づらくなり、富士山へ逃亡。

「逃亡してるじゃん!!」
「完全にアウトな姫じゃん!!」

カナは震える手でメモを握りしめ、突然立ち上がった。

「……ソラ。私、確信した。」

「また変なスイッチ入った?」

カナは真剣な顔で言い放った。

「富士市の物語こそが、原典なのではないか。」

ソラは弁当の箸を落とした。

「いや急に断定した!? さっきまで“性悪姫どうしよう”って泣いてたじゃん!」

「だって! 月に帰らないのも、永久追放も、富士山に逃げたのも……
全部、富士市の伝承にしかないのよ!
つまり、富士市こそが“本家”!!」
「テンションで原典名乗るのやめなよ!!」

カナは急に現実に戻ったように叫んだ。

「でもさ……富士市って、ほんと影が薄いのよ!
どれだけ頑張っても、まず最初に言われるのが――」

カナは深いため息をついた。

「富士市の名前を出すとね……
“ああ、富士宮やきそばのところ?”って言われるのよ!!」

ソラは即答した。

「まあ、あれは強いよね。B級グルメ界の横綱だし」

「横綱って言うなぁぁぁ!!」

カナは必死に反論した。

「富士市にも名物あるのに!
紙の街、工場夜景、つけナポリタン、シラス、吉原商店街のコロッケ……あと……えっと……」

ソラは冷静に刺した。

「出てこないじゃん、横綱級は」

「うるさい!!」

ソラは肩をすくめた。

「じゃあ富士市もさ……“逃亡姫まんじゅう”でも作れば?」

「逃亡って言うなぁぁぁ!! でも事実ぅぅぅ!!」

ソラはさらに悪い笑みを浮かべた。

「じゃあさ、いっそ“永久追放かぐや姫まんじゅう”にしよ。
逃亡より強いよ」

「強さで勝負するなぁぁぁ!!」

夕暮れの富士山が二人の影を長く伸ばす。
風が吹き、竹かごの蓋がカタリと鳴った。

「……もういい。富士市の未来は私が守る……原典として……!」
「その前に、弁当もう一個買おうよ。私は“永久追放おこわ”が入った竹取物語弁当が気に入った」
「だからそんな名前じゃないってば!!」

「じゃあ次は富士宮やきそば食べに行こ」
「裏切り者ーーー!!」

二人の声が、富士市の夕空に元気よく響いた。