《曲目解説②》7/13(土) いずみシンフォニエッタ大阪 第52回定期演奏会 | 住友生命いずみホールのブログ

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2024年7月13日(土)16時開演、いずみシンフォニエッタ大阪 第52回定期演奏会「スペインの風景―庭から望む森」が近づいてまいりました。

公演プログラムに掲載いたします解説序文と楽曲解説を3回に分けてご紹介いたします。

 

今回の②では川島素晴プログラム・アドバイザーによる前半演奏曲の解説を掲載いたします。

 

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I.アルベニス(I.Dobrinescu編)

スペイン組曲より “アストゥリアス”

 アルベニス(1860-1909)は、ピアノの天才少年として活動を始め、この《スペイン組曲》op.47あたりから本格的にスペインの民族音楽に取材した作品を書き始める。1887年に作曲していたこの組曲の全8曲は、実はそのうち4曲しか完成していなかった。しかし初演された作品が成功したしたため、8曲の構想を公表しつつ順次出版していたのだが、4曲で頓挫していたのである。1901年に版権を継承した出版社が、その構想だけを活かして既存のアルベニス作品から引っ張ってきて並べて全8曲として出版してしまった、その形が今日まで残され弾き継がれている《スペイン組曲》である。1901年の出版時に第5曲「アストゥリアス」とされたものの原曲(というより全く同一の楽曲)は、《スペインの歌》op.232の第1曲「前奏曲」(1891年作曲)である。アンダルシア地方の民族的なギター演奏に触発されて書かれたこの曲は、ギター編曲版も愛奏されている。(北方のアストゥリアスに取材した楽曲は、アルベニス自身の他の作品にも存在するが、これとそれとは全く異なる楽想になっている。出版社の勝手な配列の結果「アストゥリアス」という題名が定着し、今や「アストゥリアス」と言えばこの曲、と思われるほどに浸透してしまったという皮肉な状況である。)
 本日はこの「アストゥリアス」として知られる「前奏曲」を、室内管弦楽編曲でお届けする。ギターで言うところのラスゲアド奏法を彷彿とするピアノの連打は、この版ではハープが担当、情熱的なハープ演奏をお楽しみに。


E.グラナドス(J.Choe編)

12のスペイン舞曲集 op.37 【弦楽合奏版】より 
第3曲 ファンダンゴ/第5曲 アンダルーサ/第9曲 マズルカ ロマンティカ 


 アルベニスの少し後輩であるグラナドス(1867-1916)もまた、ピアニストとしても名を馳せた。ピアニストとしてのデビュー後、1892年から1900年にかけて作曲されたこの《12のスペイン舞曲集》op.37は、サン=サーンスなどの賞賛も得て彼の出世作となった。ブラームス《ハンガリー舞曲集》、ドヴォルジャーク《スラヴ舞曲集》など、民族音楽に取材した舞曲集の系譜に並ぶ、《スペイン舞曲集》の登場、ということになる。アルベニスの作品の大半がピアノ曲であることに対し、グラナドスはこの後、同名のピアノ曲に基づいて書いた歌劇《ゴイエスカス》(1909-15)がニューヨークで初演されるなど、他ジャンルにも代表作が存在している。(そしてその初演の帰路、潜水艦の魚雷攻撃を受け、グラナドスは沈む妻を救うべく海中に身を投じ、一緒に亡くなった。)
 この作品も各曲題名について曰くつきで、アメリカの出版社によるもので本人のものではない。スペインの出版社の楽譜にも題名があるが、12曲中5曲のみがアメリカの出版社と共通しており、それについてはグラナドス本人も認めていたとされ、本日の演目で言うと第5曲「アンダルーサ」がそれに相当する。
 この12曲の中から本日は3曲を、弦楽合奏編曲でお届けする。


・第3曲「ファンダンゴ」=ニ長調 3/4拍子。アメリカ版の題名「サラバンダ」は古典舞曲のそれを示唆するが、その原型である7世紀のスペインの野生的な踊りが下敷きであろう。ファンダンゴは18世紀に登場するフラメンコの踊り。


・第5曲「アンダルーサ」=ホ短調 6/8拍子。曲集中でも最も有名な作品で、ギター編曲版もしばしば演奏される。アンダルシア風、という意味のこの語が示すように、グラナダの情景を彷彿とさせる哀愁を帯びた旋律が印象的。


・第9曲「マズルカ・ロマンティカ」=変ロ長調 3/4拍子。「マズルカ」と言えばポーランドの舞曲だが、グラナドス自身、この後に作曲した《ロマンチックな情景》(1904)第1曲に「マズルカ」を配しているので、あながちこの命名も的外れではない。弦楽で聴く本作は、原曲以上に「明るいスペイン」をイメージできるだろう。
 

M.ファリャ(川島素晴編):スペインの庭の夜


 近代スペイン音楽を代表する存在であるファリャ(1876-1946)が、フランス滞在中(1907-1914)に構想した作品で、作曲のきっかけは諸説(展覧会、画集、詩、etc.)ある。アルベニスや、ピアニストのリカルド・ビニェスにピアノ曲としての構想を伝えると、ピアノと管弦楽の作品にすることを薦められ、帰国後の1915年に完成し、翌年初演された。スペイン情緒満載ながら、フランスでドビュッシー、デュカス、ラヴェルといった面々との交流をもったこともあり、印象派音楽の影響を感じさせるものとなっている。「交響的印象」という副題にもそれは表れていて、一種の交響詩、あるいは交響組曲の様相を示している。「この作品の作曲は、場所、気分、感情を呼び起こすことそのものである」との言にもそれは表れている。ピアノの用法もまた、協奏曲としてのそれではなく、ピアノを通じて管弦楽の響きが放射されるかのような新たな表現手法であり、上述のフランスの作曲家たちが管弦楽の中でピアノをそのように扱うことをしていないことから、本作は「ピアノから放射させる管弦楽の響き」という書法を確立した、全く独自のものとも言える。
 本日はこれを、室内管弦楽に筆者が編曲した版を初演する。編曲に際してはファリャの音楽の独自性がより強調された、繊細な表現が実現するよう腐心した。


・第1楽章「ヘネラリーフェにて」
 ヘネラリーフェは、グラナダ、アルハンブラ宮殿近くのイスラム建築による離宮で、幾つもの噴水が配されている。しばらくしてから示される旋律は、マドリッドのセラーノ街で辻音楽師のヴァイオリンが奏でていたものとのこと。


・第2楽章「遙かなる踊り」
 距離的な、あるいは時間的な意味で「遙かなる」ということであり、現前する踊りではなく、遠くに聞こえる、あるいは記憶の中の踊りの情景、ということになる。グラナドスにもあった「ファンダンゴ」を彷彿とさせるダンスが、ノスタルジーの中に展開する。


・第3楽章「コルドバの山の庭園にて」
 休みなく突入する。コルドバ近郊にある、10世紀半ばに山の傾斜を利用して築かれたイスラム時代の遺跡「メディナ・アサーラのカリフ都市」がイメージされる。ソロンゴというアンダルシアの踊りとファンダンゴの応酬は、夜のとばりに消えていく。

 

 

川島素晴(作曲家・いずみシンフォニエッタ大阪プログラム・アドバイザー)

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次回は後半で演奏する楽曲の解説をお届けいたします。お楽しみに!

 

いずみシンフォニエッタ大阪 

第52回定期演奏会

スペインの風景ー庭から望む森


2024年7月13日(土)16:00開演
プレコンサート15:30 プレトーク15:45

 

飯森範親(指揮)
萩原麻未(ピアノ)
福川伸陽(ホルン)
いずみシンフォニエッタ大阪

 

 I.アルベニス(I.Dobrinescu編)

 スペイン組曲より “アストゥリアス”
E.グラナドス(J.Choe編)

 12のスペイン舞曲集 op.37 【弦楽合奏版】より
 ファンダンゴ/アンダルーサ/マズルカ ロマンティカ
M.ファリャ(川島素晴編)

 スペインの庭の夜
J.ロドリーゴ

 ある庭園のための音楽[日本初演]
B.カサブランカス

 ・・・ 灰色の森が彼の下で揺れ動く

    ホルンと室内管弦楽のための室内協奏曲 第2番[日本初演]

一般 ¥5,500 U-30 ¥1,000

第52回+第53回定期2公演セット券 ¥9,000

 

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