フランスの経済学者トマ・ピケティ氏の著書「21世紀の資本」がアメリカで大ヒットし、世界で話題になっています。


 ピケティ氏は米国やスウェーデン、フランス、英国など複数国の経済データを数世紀さかのぼって検証。資本収益率が経済成長率を上回る状況が資本を持つ富裕層をますます豊かにし、貧富の格差拡大につながることを実証したとしています。



 つまり、土地や株式等の資産運用の方が、労働による所得の伸びよりも大きいため、お金持ちは資産を運用する事でますます富み、今後、経済成長がますます鈍化していくと考えられるが、そうなると資産を持たない労働者はますます貧乏になるという事です。


 だから、所得の再分配が重要だという主張です。


 これについては、私も全く同感です。過去の日本の高度成長も所得倍増を達成し、経済格差の少ない分厚い中間層に支えられたものであります

 バブル崩壊後の失われた20年のデフレ時代には労働政策の変更も含めて、格差が大きく拡大し、低成長を続けてしまいました。

 

 という事は逆に言えば、経済成長のために格差を縮小すべきだと私は考えています。


 当然、ピケティも何も所得再分配、格差の縮小だけを言っているのでは無く、「格差の拡大が経済成長を阻害する」と、経済成長の重要性を主張しているのです。



 しかしながら、毎日新聞や朝日新聞などのいわゆるリベラル?新聞は「ピケティ現象」などと持ち上げておりますが、経済成長というキーワードが全然出て来なくて、「資本主義の制度疲労」、「格差の是正のための富裕税」というキーワードしか強調しないのはどういう事なのでしょうか。


 同様に、いわゆるリベラルである民主党も先の衆院選での「アベノミクスで格差が拡大」と念仏のように唱えていたと思います。

 結論から言えば、日本のいわゆるリベラルの人達が本当のリベラルの経済を理解できていないという事です。

 

 本当のリベラルであれば、格差の縮小は勿論の事、経済成長を主張しなければおかしいのです


 私は日本のいわゆるリベラルメディアがアベノミクスの第一の矢「金融緩和」、第二の矢「財政政策」を否定するのはおかしいとこのブログでも何度も指摘してきました。

 第三の矢「規制緩和」については私も怪しいと思っていますが。


 では、日本のいわゆるリベラルが持ち上げるピケティは、彼らが大嫌いなアベノミクスについて何と言っているのかを見ていきたいと思います。

 

 「財政面で歴史の教訓を言えば1945年の仏独はGDP比200%の公的債務を抱えていたが、50年には大幅に減った。もちろん債務を返済したわけではなく、物価上昇が要因だ

 安倍政権と日銀が物価上昇を起こそうという姿勢は正しい。物価上昇なしに公的債務を減らすのは難しい。2~4%程度の物価上昇を恐れるべきではない。4月の消費増税はいい決断とはいえず、景気後退につながった」(日経新聞2014年12月22日 より引用)


 このように、ピケティは明確に消費増税を否定し、アベノミクスの物価上昇政策を肯定しているわけです。

 付け加えれば、ピケティは経済政策において、金融政策よりも財政政策を重視しており、特に財政出動で需要を生み出して格差を解消し、経済成長を実現すべきだとしています。

 それゆえ、日本のGDP200%の政府債務は気にする必要がなく、WWⅡ後の仏独のようにいずれインフレで解決されると言っているわけです。

 

 一方で、日本のいわゆるリベラルメディアは、常々、消費増税や財政均衡こそが将来のために必要としています。これはピケティとは全くの真逆の主張だと私は思います。


 つまり、日本の自称リベラルの大新聞は全く真逆の事を言っている経済学者を、一部分の共通項を見出して、あたかも自分達の主張の体現者のように報じているのであって、私は強く違和感を感じます


 日本版リベラルの言う「ピケティ現象」とは、日本版リベラルの経済オンチを象徴するものではないかと私は思います。


 そして、ピケティの言説を踏まえれば、自民党一強多弱の国会において、リベラルを自称する民主党の再生の策は、闇雲にアベノミクスを批判する事ではないはずです。


 アベノミクスの第一の矢、第二の矢を否定せず、第三の矢を「規制緩和」ではなく、「所得の再配分」に置き替えた政策を主張すべきだと私は考えますし、これが世界のリベラルの常識という気が私はします。



 最後にピケティの格好良いエピソードを紹介して、この稿を閉じたいと思います。


 フランスのオランド大統領(リベラル派政権)が「21世紀の資本」大ブームを受けて、ピケティに勲章を授与しようとしましたが、ピケティは辞退しました。


 その理由は、ピケティ曰く、「政府の仕事は勲章を授与する事ではなく、経済を回復することだ」という事です。

 もちろん、緊縮財政によって景気が低迷するEUに対する皮肉という面もありますが、経済成長を重視するピケティらしいエピソードだと私は思います。