「今の日本の経済体制は何でしょうか?」という質問をすれば、殆どの人が資本主義と言うでしょう。

 ではその資本主義とは何か。辞書で調べると次のようになります。
「生産手段を資本として私有する資本家が、自己の労働力以外に売るものを持たない労働者から労働力を商品として買い、それを上回る価値を持つ商品を生産して利潤を得る経済構造。」


 私なりに解説すれば、企業が資本家の出資や、銀行からの借入によって資金を得て、その資金で労働者の雇用、生産設備の購入等をして市場に財・サービスを供給し、コスト(雇用、投資)を上回る利潤を出して成立する経済体制という事です。
 
 超単純に言えば、「お金を借りて使って儲ける」と
いうのが資本主義の企業として当たり前の姿なのですが、今の日本企業はどうでしょうか?


 世界的に見ても異常な事に、日本では企業が生産主体ではなく、貯蓄主体となってしまっているのです。
 ここで何度も書いてますように、日本企業の内部留保(≒企業の貯金)バブルの時の100兆円からどんどん積みあがって、今では230兆円になっている。
 貯金を増やせるような利潤が上がっているなら、更なる生産活動にお金を使う、これが本来の資本主義の企業の姿のはずです。


 しかしながら、日本の現実は本来の企業の姿から程遠い。
 じゃあ何で世界で日本だけがそうなっているの?というと、その原因は企業はデフレ下で安い価格でしか物が売れないので、投資しても儲からないという判断が働くからです。
 よく「デフレは資本主義の死」と言われるのはこの辺りに由来します。
 
 結果から見れば、今の日本企業は「貯金するためにコストカットしてなんとか利潤を出している」状況です。
 そういった企業ばかりが集まれば、当然、経済の規模が縮小し、企業はより利潤を出すのが難しくなる。政府にとっては税収が減っていく事になります。


 そういう中で、来年4月の消費税増税というコストプッシュインフレ⇒深刻なデフレの崖が待っている訳です。
 日本国内の消費(需要)が大きく低迷する中で、企業が利潤を出すためには「更なるコストカット」という発想になるというのは過去の経験から明らかだと私は思います。
 GDPは「家計の消費」+「企業の投資」+「政府支出」+「輸出」ー「輸入」ですから、GDPの減少(=経済のマイナス成長)を食い止めるためには、民間の需要が減った分、政府が支出を増やさないといけません。


 誤解の無いよう書いておくと、何でもかんでも政府支出を増やすべきという事ではなく、消費税増税しなければ、政府支出を無理して増やす必要は無かった。
 金融緩和と財政出動によって円安・株高・消費増という今の状況が続けば、需要が増えていき、企業も投資を増加させ、デフレを脱却する事で今までのマイナスの連鎖から、プラスの連鎖に転換できると思っています。

 上記のように私はデフレの原因は「総需要の不足」によって起こると考えている訳ですが、経済学にはこれとは全く違う考え方があります。
 
 全く違った考えとは「新自由主義」とか「小さな政府」論などと言われます。
 まず、それらの人達は、政府は裁量的で非効率な存在だから、国防などの最低限の機能以外はできる限り民間でやれという思想があります。
 ですので、当然、政府支出によって需要を喚起するのはナンセンスで、企業などの民間の「供給面」にテコ入れするという方法を考えます。

 企業減税を実施し、民間投資を促す規制緩和を行い、公的分野にも競争原理を導入するため、国営企業を民営化するなどがあります。また、富裕層に所得税減税を行います。減税によって増えた所得は株式投資に流れ、それが企業の経済活動を活発化するなど、いわゆる「トリクルダウン」理論の有効性を信じている訳です。


 新自由主義者の理想的な税体系はどのような物かというと、「法人税はタダ、所得税はタダ、資産税もタダ、税金は人頭税だけ」という物です。


 余計な税金は取らず、全員同額の税金にすれば、政府が非効率の支出をする事はなく、金持ちは余った多くの金を使うから経済は活発化する。貧乏人の逆進性には目を瞑ろう。

 企業への課税は税率が高ければ逃げてしまう。国民への均一課税は逃げないので取りっぱぐれが無い。

 人頭税という皆同額の税金は流石にできなくても、皆同じ税率という事で、人頭税の代わりが消費税増税なのです。
 
 「新自由主義」とは以上のような考えなのですが、そういった意味では、今回の消費税増税は「新自由主義」の一歩前進であったという事です。


 更に、安倍首相は「法人税減税によって日本に投資を呼び込む」という発言もしています。私からすれば、先行きが非常に心配です。
 
 その理由はまず第一に、消費税増税しつつの法人税減税は消費者から企業への所得移転(=企業優遇)に過ぎません。 


 第二に、今は3割の勝ち組の黒字企業しか法人税を払っていないため、3割の企業のコストが低下するだけであり、他の7割もの多くの企業には無関係な政策です。

 デフレ下の日本では利潤を上げている企業も貯金ばかりしているため、「トリクルダウン」はおきません。


 第三に、減税によって海外から企業を呼ぶと言いますが、それは国内の競争を活発化させ、値下げ競争が起こり、むしろデフレ要因となります。
 
 こういう反論を首相は果たして理解しているのでしょうか?非常に怪しいです。

 いくら企業が「供給」を増やしても、それを買う側が「需要」を増やさなければ、経済は発展しません。

 そもそも、デフレとは供給が大き過ぎる、または需要が小さ過ぎる事で起こっているのです。

 今の日本経済に必要な物は「供給の増加」ではなく、「需要の増加」ではないのでしょうか?