前回、日本経済の再生を頓挫させうる消費税増税に悲観的な記事を書きましたが、いつまでも嘆いていても仕方ありません。
 増税賛成派でも認めざるを得ない消費増税の景気に対する悪影響ですが、いかに最小限に留めるかを考えなくてはいけないと思います。


 総額5兆円の経済対策で足りるのでしょうか?
個別には、復興法人税の前倒しでしょうか?それとも低所得者への1万円の給付でしょうか?


 それを考えるため、まずはこれまでのアベノミクスは何によって支えられてきたのかを考えます。

 結論から言えば、アベノミクスは円安と株高によって支えられてきました。 

 経済が本格的に回復し、デフレ脱却を実現するには円安・株高をしばらく続けなければいけなかった。逆に言えば、消費増税さえしなければそれは可能だったと私は考えます。


 アベノミクスの第一の矢「大胆な金融緩和」、第二の矢「積極的な財政出動」によって、まずは円安が起きて、それが株高に繋がりました。

 円安について説明すると、経済の大原則である、「量が多い物は価格が安くなる」という事で、貨幣量が増えれば、当然円の価値が下がる。交換手段の円の価値が安くなれば、反対に物価は高くなるということです。

 金融緩和で貨幣の量が増え、相対的に円安になりました。

 財政出動はGDPを増加させ、景気を下支えしました。
 円安・株高の資産効果によって、個人消費は富裕層を中心に拡大し、実体経済を押し上げました。
 一方で、企業の業績は回復しましたが、全体的にはこれは需要が高まった事による売上数量の増加ではなく、これまでの超円高が解消された事による為替差損のマイナスがプラスに転じた事が大きな要因です。

 今までと違って金融緩和・財政出動の一体政策によって需要が喚起され、インフレ予想が成り立つ状況下では、売上自体の増加でなくても、企業収益が増えている状況が持続すれば、いずれは売上数量自体が伸びていく事になります。繰り返しになりますが、好景気が持続し、デフレ脱却するというのが非常に重要だったのです。
 
 余談ですが、1年前までの超円高時代には日本の製造業の苦境が幾度となく報じられ、「ものづくり大国日本の危機」をテーマにしたドラマも何本も作られました。
 製造業の苦境の原因は企業がコストカットで中国に人材流出したからだとか、アップルのような企業が無いからだ等の言説が支配的でしたが、円安で業績を回復した今となっては、それらが主要因でなかった事は明らかです。
 つまり、金融緩和が不十分で円高を是正しないという政府のマクロ経済政策の失敗が最大の原因でした。
 
 話がそれました。過去15年のデフレ下でも金融緩和が実施され、デフレ脱却に近づいた時もあります。
 小泉~第一次安倍政権の時ですが、その時は公共投資の削減を続け、財政出動と金融政策がセットの経済政策ではなかったため、結局はデフレ脱却には至りませんでした。
 その逆で、景気が悪化し、デフレ圧力が高まる度に円相場はいつも円高になりました。

 つまり、デフレは為替と連動しているのです。

 そしてまた、株価も為替と連動しており、円高になれば株安に、円安になれば株高になります。
 
 これはアベノミクス以後の円安・株高でも変わらない日本経済の法則のようになっています。
 
 この「デフレ深刻化⇒円高⇒株安」という法則があるとして、では消費増税でどうなるのでしょうか。
 前回も書きましたが、消費増税は需要の高まりによるインフレではなく、消費者の意図しないコストプッシュインフレですので、増税後には物が売れなくなります。消費税を除いた物価はどんどん下がってデフレが深刻化するでしょう。
 そうなると、円高、株安になり、アベノミクスの拠って立つところが崩れ去ることになります。
 自分達は輸出企業だから関係無いと消費増税に賛成していた日本企業トップの無能さも伺えます。


 次に、前回の97年の増税の時はどうだったのかを確認します。

 97年と言えば、バブル崩壊後とは言え、その後日本経済が陥る長期デフレの前の事であり、まだまだ名目の経済成長が続き、税収が増えている状況でした。つまり、今よりも景気は良かった。そんな時代でも消費増税は失敗してしまいました。

 元財務官僚の高橋洋一氏は「97年の増税の時、財務省は消費税を取った分は全て使うから経済に悪影響は無いと説明して増税したが、現実には景気が悪化した」とおっしゃっていました。

 今回、消費税増税によって増える国民負担は8.1兆円で、国民年金保険料の値上げ0.8兆円と合わせて9兆円と言われています。


 安倍政権は増収分(あくまで予定)の内の5兆円を経済対策として使うと言っていますが、97年に増税分全て注ぎ込んで上手くいかなかったものが、今回は上手くいくとは到底思えません。

 シンクタンクの試算では消費増税という需要の高まりによらないコスト高による値上げで、消費の減少が5.6兆円起こり、経済はゼロ成長となるとされています。消費税増税に賛成していたシンクタンクですらゼロ成長を予想する。これでどうやって財政再建と経済成長を両立できるのでしょうか?
 
 デフレを完全に脱却してからならともかく、今のデフレ下で9兆円負担が増えるとなったらどうなるでしょうか。
 消費の減少は5.6兆円では済まないと私は思います。

 デフレ脱却のため、ゼロ成長ではなく、3%の成長をするというのなら、財政出動の規模は5兆円では到底足りません。15兆円は必要でしょう。この15兆円は消費増税しなければ不要だったものです。

 アベノミクスの言う2%のインフレが需要の拡大によるものでなく、消費税の3%増税によるコストプッシュインフレを意図したものであるなら、なるほど上手い嘘をついたものだと感心します。
 
 次に、5兆円の経済対策の個別の物を見ていきます。

 まずは法人税についてです。
 以前から書いているとおり、雇用減税や設備投資減税は良いが、法人税の実効税率の引き下げは、個人冷遇・企業優遇以外の何物でも無いため反対です
 15年続くデフレ下で100兆から300兆円にまで増えた企業の内部留保を見ると、法人税の税率を引き下げたら企業は雇用や設備投資を増やすという説明には全く説得力がありません

 企業が投資や雇用を増やさない根本的な原因はデフレですので、投資や雇用を増やすのはデフレ脱却が確実になった時です。

 消費増税の時点でデフレ脱却に大ダメージですので、いくら企業に減税したところで浮いたお金は内部留保に周るだけでしょう。

 今回、水面下では、官邸側から法人税の実効税率を引き下げる動きがあったが、党や財務省の反対で、復興法人税の廃止に落ち着いたという話です。
 とはいえ、法人税の実効税率を下げるという動きが完全に無くなったとはいえないため、依然、注意が必要です。


 復興増税の廃止については、そもそも、復興の財源は増税ではなく、建設国債等を発行してやるべきものであったのでこれは問題無いと思います。

 しかし、企業優遇のイメージが付いた上で、実際に来年になって景気が悪化すれば、政権に大きなダメージになるでしょう。


 次に、低所得者への1万円の給付ですが、これは12か月で割れば、月800円ほどです。無いよりはましですが、経済対策としての効果はほとんど無いでしょう。
 
 消費税収入を増やすためにはどうすれば良いのでしょうか。高橋洋一氏によれば、歳入庁を設置し、インボイスを導入して、きちんと税金を取ればそれだけで十兆円の増収になると言っています。
 増税によって景気を腰折れさせず、そういう所で頑張れば良かったのに、安易な増税に走ってしまいました。


 来年4-6月期のGDPが大幅なマイナスになって安倍首相も自分の失策に気付いて目が覚める事と思います。
 リーマンショック後、イギリスは必死に金融緩和した結果、景気回復をした。それで油断して、消費増税をしたら景気悪化したため、もう一度消費税を下げました。
 今回税を決定してしまった日本はイギリスを見習うべきでしょう