今週のNHKの日曜討論が面白かったのでご紹介します。

NHKの日曜討論において、消費税増税の是非について有識者が話し合われていました。

大変興味深い議論でしたので、趣旨を抜粋してお知らせします。



討論者は4名です。

本田氏(内閣参与)増税慎重派 、

山崎氏(楽天証券)増税慎重派 

井堀氏(東大教授)増税賛成派 

熊谷氏(大和総研)増税賛成派 

私としては、増税賛成派は消費増税で税収が下がり、デフレマインドが脱却不可になったら貴方達は責任取れるの?と聞きたいです。言うまでもなく、税収が下がれば、「将来のために」などと言ってる賛成派の論拠が全て崩れ去る事になります。

<現在の景気状況>

本田氏 これまでのデフレ下でずっと低い成長経路から、アベノミクスの第一、第二の矢による高い成長経路にジャンプしようとしている


山崎氏 主に金融政策の効果で順調に回復しているが、まだ賃金上昇を伴う着実な景気状況とは言えない。景気回復の初期段階。


井堀氏 日本の潜在成長率1%を越えて2.6%と良い数字だが、ずっと続くかはわからない。



熊谷氏 アベノミクスで着実に回復している。GDPも旺盛な個人消費に対応するため、企業が在庫の取り崩した事で下がったため、実力は3.5%ある。


<予定どおり消費税を引き上げるべきか>


熊谷氏 経済環境から見ても増税できるし、増税すべきだ。所得は全体で1%増え、リーマンショック前に戻った


本田氏 足元の数字は悪くないが、これを持って8%に増税するという事に対しては懐疑的だ。アベノミクスの目的は2%のゆるやかなインフレを実現しつつ、安定した成長を目指していく事。これまで15年間デフレで苦しんだという事実は非常に重い。今回は景気回復だから増税しても良いという単純な物ではない。デフレからインフレに、マイナスからプラスにマインドを変えながら景気回復を実現する必要がある。景気回復の腰折れを心配するんじゃなくて、インフレマインドの腰折れが心配まずは賃金が上がらないとダメだ。


山崎氏 賃金が上がる過程はまず、(インフレで)実質賃金が下がり、人手不足になって初めて賃金が上昇する。大多数の人にとっては賃金は後で上がるが、失業者などの弱者が助かるというまずそういう過程を経る。賃金が上昇する状況を作るためには景気を腰折れさせてはいけない


井堀氏 消費税の引き上げの判断を直近の景気に連動させて考える事自体がおかしい。消費税は安定財源確保という中長期的視点や、税負担の公平性といった観点から上げていくべき。今上げればその分、将来の増税要因を消す。直近の景気は重要だが、消費税の上げ下げで対応するのではなく、金融緩和などの別の政策でやるべき。

本田氏 景気対策のために消費税を考えるのではありません。15年間続いて縮み思考、投資・消費減、少子高齢化など色んな弊害をもたらしているデフレを今まさに脱却しつつあるというタイミングだ。その時に消費増税はいかにもタイミングが悪い。できたら1年間待って欲しい。

何もしないで放っておくのは、財政の健全化に疑念を生じる可能性があるので、1年1%ずつ5年間で増税という、消費者のインフレマインド形成に役に立つ形で案を示した。消費税増税自体は賛成だ。

熊谷氏 増税の前にやるべき事があるとこれまでも言われてきたが、これには先送りの効果がある

 1%ずつというのは一考に価すると思うが、まず事務負担が重くなる。もう一つは下請けイジメの問題で、小幅に上げていけば、下請けが価格に転嫁しづらくなり、イジメられる。もう一つは小刻みでやると税収が下がる。試算では10兆円。 他には、政治的なコストがかかる。(泉注 ねじれは解消したのですが)悪い案ではないが現実的ではない。


山崎氏 生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIは対前年比マイナスこれが2%まで持ってこれたらデフレマインドが払拭できるので、その時には増税もかまわないが、現段階で3%の増税をすると、ざっと8兆円の増税。その半分で見ても4兆円需要を抑えてしまう。物価上昇のプロセスを失うというリスクが大きい。

 消費税を引き上げた場合のリスクと消費税を引き上げない場合のリスクを比較する必要がある。例えば、消費税を引き上げなければ、財政の信認に影響し、国債が暴落すると言う人もいるが、現在の国債の長期金利は0.8%程度と極めて安定している。国債の暴落というリスクは無い。2つのリスクを比べて、消費税を引き上げるリスクの方が大きい。

 

井堀氏 既に去年の段階で消費税引き上げは決まっている。一応景気条項はあるけど。4月まで時間が無い。マーケットも引き上げを前提に動いている。直近での延期は一年後に上げるかどうかについて不信感が出る。一年後が今より景気が良くなっている補償は無く、悪ければまた一年延期するのかという話になる。せっかく3党合意で決めた事。国民もまあしょうがないと思っている人が多い。景気状況も悪くない。この状況で上げられなければいつ上げられるのかという不信感が出てくる。粛々と実行すべき。

 

本田氏 消費税増税の3党合意の時、私は財務省退職の直後だったが、ちょっと信じられない気分だったデフレの真っ最中に増税をすると言うのは全く間違った政策。つまり、去年全く間違った政策をしてしまった。ただ唯一救われるのは附則18条。景気条項があるから全体として合理性をようやく担保できた。だが、今や経済のフェーズが変わってきて、デフレ脱却の見通し、将来の明るい展望が出てきた。

どうしてそういう時にもう一度、今のこの経済の状況で国民にとって一番良い方法を議論しないのか。既に決まった物だから粛々とやれば良いという問題ではない。


<デフレが始まった15年前(前回の消費税増税時)の状況について>


熊谷氏 97年の増税には2つの俗説が罷り通っている。1つは増税をすると消費が腰折れをして景気が大変な事になるという説。ただ、実際に調べると増税後の97年4ー6月期に消費が落ちているが、7-9月期には消費が戻っている。事実関係として違う。(泉注 たった3ヶ月で15年間の全てを否定するのはおかしい気がします)もう一つは、小渕減税で6兆円の大判振る舞いをやり、地方への税源委譲などもあったので、(それを除くと)リーマンショックの前には97年前の水準に税収は回復している。
 そこで消費税が上がっていなければ税収はもっと下がっていた。俗説に惑わされず判断すべき。

山崎氏 97年のアジア通貨危機、山一證券破綻など、消費税の増税だけが景気を腰折れさせ、税収を減らしたとは言えないが、増税の経済的なリスクはある。増税しなければ国民の手元には8兆円残る。まだ賃金が上がらない中では良い事。


井堀氏 消費税増税は社会保障の機能強化や借金の削減に使われている。消費税増税は現在の人にとって少しは大変かも知れないが、現在と将来でどちらが経済的に大変かという事が一つの判断になる。少子高齢化なので社会保障を支える将来の方が大変。(泉注 増税で税収が減ったら将来余計に大変です)


山崎氏 デフレが非常に若い人にとって負担になっている。世代間の負担を考える上でも重要になってくる。(泉注 デフレでは賃金が増えないので働く現役世代に不利)デフレ脱却を優先すべき。

熊谷氏 経済成長と財政再建を両立するのが重要。97年当時と今では状況が全然違う。当時は公共投資が急減していたが、今は公共投資が景気を下支えしている。住宅投資などは激変緩和措置を取っているので駆け込み需要も緩和される。設備投資は当時は減らせる所まで減らしたが、今はこれから増えていく状況。全体として内需は心配しなくて良い。


本田氏 デフレ脱却には大いに心配です。可能であれば、2%の安定したインフレが実現できるであろう1年半後まで先送りすべき。消費税が安定で重要な財源だと言う事はおっしゃるとおりだが、国民の間にデフレ脱却の期待ができつつあるこのタイミングでは良くないというそれだけ。

 インフレ期待が確立すれば増税すべき。

 97年の分析には色んな俗説があるが、消費税増税が消費に与える影響は大きいと思う。

 確かに消費税増税後に一時挽回した。財務省その他の有識者は「完全に消費税の消費に対するマイナス効果は払拭された。その後、消費や投資が落ち込んだのは東アジア通貨危機や金融システム危機がデフレの原因」としてきた。しかし、それにはレトリックがある。

 当時の消費の中身を見ると、住宅投資と耐久消費財は回復していない。それ以外の消費は復活しているように見えるが、前年の96年の特殊性に原因がある。96年は0-157が流行、食料需要が落ち、冷夏で電気代が落ちた。それから携帯電話が97年から新規で急速に普及しだした。

 こういう事を見ると、消費税増税をしても一度消費への影響が完全に回復し、その後、別の要因で低迷したとは言えない。消費税の影響はずっと長く続いている。

 

井堀氏 消費税と言うのは物価を上げる要因なので、インフレマインドにプラスの要因だ。消費税を上げるのに一番悪い状況はインフレが加熱している時だ。デフレの時は消費増税によってインフレマインドを上げる絶好の時期だ。(泉注 正直笑いました。天下の東大教授が悪いインフレかどうかお構いなしでこんな話をするとは)

本田氏 消費者も流石に58%、810%まで消費税が上がった場合、コストプッシュインフレとディマンドプルインフレの違いはわかります。従って、これは所得が上がらない間のインフレ、コストプッシュインフレなので、増税分だけ実質所得が減り、必ず悪影響が出る


熊谷氏 消費税増税の効果を課題評価すべきでは無い。例えばヨーロッパの事例を検証しても、増税して景気が腰折れするという事実は認められていない。

 将来の不安を無くす事がむしろ長い目で見て消費を拡大する。将来が不安である事で国民の貯蓄率が30年で5%下がっている。将来の不安が無くなれば5%消費を増やす要素がある(泉注 普通将来に不安があるから貯蓄に回すと思いますが。貯蓄が減ったのはデフレで所得が減ったからです。特に若者に顕著。)


<財政再建>


熊谷氏 市場関係者のアンケートでは、予定どおり増税しないと、債権が売られて長期金利が上昇するという意見が8割ぐらい。また、今国債の金利が低いから大丈夫だという理屈はおかしい。2009年のギリシャは暴落する直前まで金利は崩れていなかった。今後は長期金利が45%への上昇が見込まれる


本田氏 ヨーロッパの例では消費税を引き上げて税収が落ちた例はいっぱいあります。例えば、20102011年の英キャメロン政権の増税

 あの時はリーマンショックの後20%⇒15%に一回落とし2011年に17.5%に上げて、更に景気が良くなってきたので20%に上げて元に戻したが、あの時は実質GDPがほぼゼロに落ち、税収も落ちた。他にもいっぱい例があります。


 それから、ギリシャと日本の根本的な違いは、日本の政府債務は全部円建てです。円建ての債務は論理的にデフォルトしません一方、ギリシャの場合は全部ユーロ建ての債務です。

 つまり、通貨発行権の無い国で、自国通貨で無い、共通通貨で借金をしてしまった。そこの所が日本と根本的に違う。(泉注 日本の場合、円建てで借金してますので、いざとなれば日銀が通貨を発行し、国債を買取り棒引きする事もできます。ユーロは全参加国に一つの通貨、一つの中央銀行なのでそれはできません。)


 なので、財政の状況が悪いのはその通りだが、23年の内に何か策を講じないと資金調達が難しくなるとか、そういう状況ではありません。
ですから、1年2年消費税増税を待つ。その余裕は十分にあります。国民も一般的にそう認識してます。ただ、金融の専門家達は消費税増税を織り込み済みですので、延期したら若干の混乱はあるかも知れないが、それはそういう事を一部煽ってきた人がいる。自作自演というのがあるんですね。
もし、増税の予定を変更するなら、私は世界を回って格付け会社、資金運用者に説得してまいります。全く問題ないと思います