教育にもある収益性の理論 | 都の西北 / 山梨 / 甲府 / 愛宕山からチトフナ(世田谷)に!

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2004年12月に山梨県に移住,15年を過ごした後に
2020年3月に世田谷に引っ越しました!

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教育にもある収益性の理論

2018年の年末年始にかけて,一橋大学 荒井一博教授の
『学歴社会の法則』 を 読んでいます(2007年).
この書籍に書かれていることは 『教育の経済性』 
と呼ばれる,大変興味深い示唆です.
現実を捉える意味でも読む価値がある研究成果であり,
自身の子供に対する教育をどう考えて来たか,再確認しています.

 何故,親は子供の教育にセンシティブなのか?

それは子供の将来を考えての事,
良い仕事に就いて欲しい,これはしっかり食っていけること,
つまり給料がいい仕事に越したことは無い,そうあってほしい!

厚生労働省から出ている賃金体系の統計

 http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2015/

ここにある調査概要で,
最も賃金格差に繋がるのが,『学歴』 と言われています.

学歴別賃金: 厚生労働省資料(平成27年)

何故,学歴別賃金体系が現実社会で成り立っているのか?

これに対して,答えを提供している理論が2つあり,
ともにノーベル経済学賞を受賞しています.

人的資本論:大学教育によって知識という資本を蓄積している.
これによって生産能力が上がったと考える.
教育によって人間の中に蓄積された知識や技能を
人的資本とよび,これに対して高い賃金が付与される.

 Becker, Gray. S  “Human Capital”
 Schultz, T.W  “Economic Value of Education”

シグナリング理論:人材を採用する側の企業が,情報の非対称を
解消するための情報を,採用される側の教育履歴から
判断する.学歴はそのシグナルになるものと考える.

 Spence, Michael “Market Signaling”

面白い研究成果があります.

 教育投資の収益率:6%
  私立大学の医学部:8.7%(勤務医)
  国立大学の医学部:17.1%(勤務医)
  
  医者を目指す学生が多いことはこの事実に基づくと考えると,
  理にかなった進路選択のひとつだと言える?

理系の場合,特にしっくり来るように思います.
高い知識や技能を習得した場合,その教育を受けた人は
人的資質が高まっており,生産性も高くなっており,その賃金は
普通の人よりも高いことが当たり前(?)といった発想に繋がっています.

 昔から言われる話,就職は理系の方が有利?

ただ,注意しなければならないのは,学歴は能力を高める手段であって,
学歴自体が高い報酬を生み出すわけではないということ!
 → 能力の低い,高学歴者がいることを世間は知っている?
 → 学歴が無くても,能力の高い個人は高賃金を得るはず?
    年収数億円のプロ野球選手に学歴は不要,プロサッカー選手も同じ!

単純に今の現実を説明できないことも事実です.

スペンスは言っています.

 『学歴は個人の能力に関するシグナルの役割を成す.』

人は何をもって,他の人を有能であると判断するのか,
生産性が高いと判断するのでしょうか?
このシグナルを 『学歴』 に求めるという理屈です.

お見合い結婚は今でこそほとんどなくなりつつありますが,
その時にとても大事なものが 『釣書』 と言われる
その人の経歴を書いた経歴書(身上書)があります.

  釣書:   縁談の時にお互いで取り交わす自己紹介(プロフィール)を載せた書面
(つりしょ)  これ以外に家系図なども取り交わすことが多かった.

相手の情報を可能な限り正確に,客観的に捉えたいのは
人を採用する際の企業であっても(一生面倒を見なければならない?),
結婚を考えているお互いに対しても,本音では譲れないところです.

このシグナルとして,何を持って判断するか?
これに学歴を使っている場合が少なくないということだと思います.

ただ,このシグナル理論には大きな問題がありますね?
大学で受ける教育の質が全く議論されていないことです.
ただ単に,大学を出ればいいというものではないし,
大学に入るまでは猛勉強したであろう人も,入ってからは麻雀,
バイト,サークル活動で,遊びまくった人が高く評価されることもあり,
これが高給取りになる事が本当に正しいのか,
多くの人が持つ疑問でもあります.

では,お金が無くて大学に行けなかった人たちのケースはどうなるのか?
この疑問に対しても,資本市場の完全性が成り立っていれば,
不公平は生じないと,経済学者は言っているそうです.
 → 投資に対して,誰もが公平にリターンが期待される社会が完全性
ただ,これは現実にありえない,資本市場は不完全なもの?

スペンスの言う理論の根底には 『同能力同費用』 という考え方があります.
投資収益率が誰に対しても同等と言っても,そもそもその投資をする環境が
誰もが同じかと言えばそうとも言えない? 無い袖は振れない?
→ 裕福でない家の子が,裕福な子と同等な教育環境を与えられるか?
    これが問題となっている 『格差』 の問題に繋がっているということです.

更に考えなければならない事象はたくさんあります.
教育を受ける側の男女格差,親の教育への理解,地域性(首都圏とそれ以外)
物価水準,景気(就職氷河期に就職した学生の悲哀),
まともに集計するにしても,多くの特殊要因が複雑に組み合わさり,
単純に考えられない理由は多々あり,その結果が報酬格差に繋がっているはずですが,
それであっても,最終学歴による報酬格差は統計的に明確に出てきています.

<50~54歳平均報酬額(平成27年)>

 大卒・大学院卒(男): 544.1万円
 大卒・大学院卒(女): 399.4万円
 高卒(男): 343.0万円
 高卒(女): 225.0万円

この差額を眺めて,ここまでの議論と4年間(or_6年間)の教育費用をどう考えるか?
これが教育に対する経済学であり,教育への投資回収率と言うことになります.

 経済学視点から考える → 教育投資をする選択を推奨する!

ただ,これも個人の考え方に依ることは言うに及びません.
人の人生はお金がすべてではないからで,裏を返すと
格差を気にしている人は,お金に依るところを
重視しているとも言い換えることができるように思います.

 ベーシック・インカム

これが現実になると,お金に対する考え方が変わり
教育に対しても考え方が大きく変わる可能性も
あるように感じています.