吾妻の森の龍神社(わだづみじんじゃ) | 伊豆高原 遊リゾートのちーさん

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吾妻の森の龍神社(わだづみじんじゃ)


                   著 山本 悟


JR伊東駅近く、宇佐美寄りの山の中ほどに、弟橘姫

(おとたちばなひめ)をまつる龍神社(わだづみじんじゃ)が

あります。


弟橘姫は日本武尊(やまとたけるのみこと)のお妃でした。

尊は父 景行天皇(けいこうてんのう)の命令で、東国の

えみし(天皇に手向かう者)を従えるため、都を後にしました。

姫はそのお供に加わりました。


一向は相模国(神奈川県)に着くと、上総国(かずさのくに)

(千葉県)に向け走水の海(浦賀水道)を舟で渡ることに

しました。


舟が水道の中ほどまで進んだときです。


突然海が大きくうねり、舟は上下に揺れ、舟べりを越えた

波が、舟の中まで入り込んできました。


舟の上の人たちは、荒れ狂う波のうねりに、手の施しようも

ありません。


「これはきっと、海の神様のお怒りに触れたにちがいありま

せん。わたしがあなたの身の代わりになって、お怒りを

なだめましょう。

あなたには東国のえみしを従えるという、大事な仕事が残

されています。

無事に役目を果たされて、都へお帰りになってください」


言うが早いか、姫は海の上に飛び降りました。

姫の姿が波間に消えると、荒れ狂っていた海がうそのように

静まりました。


尊は悲しみを乗り越えて舟を進め、上総国に着きました。


そして東国のえみしをつぎつぎに従えると、陸の道をたどって

都に向かいました。


足柄山(神奈川県)の頂上近くで一休みした尊は、東の方を

振り返りました。すると戦い続けて来た上総国が、遠くに

かすんで見えました。


しばらく時が過ぎ、尊が近くに目を移すと、姫の沈んだ

走水の海が目に入りました。


「あのとき、姫が海の神の怒りを鎮めてくれなかったら、今の

わたしはなかっただろう。

いっしょに都へ戻ることのできない姫。

せめて姫の身につけていた物が、どこかの海辺に流れ

着いて、手厚く葬ってもらえたらよいものを」


姫のことを思い出すと、尊は熱いものがこみあげてきました。


「吾妻はや(ああ、わたしの妻よ)」


たまらなくなって、尊は嘆きの声をあげました。


その後、尊は長い旅の末、無事に都へ戻りました。


尊の願いがかなったのか、姫の身につけていたくしが、およそ

百キロメートルも離れた伊東の湯川海岸に流れ着きました。

そしてそのくしは湯川の漁師に拾われました。


二人の話を伝え聞いた湯川の人たちは、姫の心を哀れに思い、

湯川の山ほどの海の見えるところに、小さなほこらを建て、

姫をまつりました。


ほこらは海の神龍神社(わだづみじんじゃ)としてあがめられ、

姫を思う尊の気持ちにうたれた人々は、神社のまわりを

いつしか吾妻の森と呼ぶようになりました。